米国調査報告          
※ここに掲載した報告書はまだ未完成のものであり、実態とは違うものになっている場合もあります。転載等はご遠慮ください。尚、コメントは当事務局へいただけますよう、よろしくお願いいたします。

■Donna Rice Hughes
   (http://www.protectkids.com/donnaricehughes/
1 住所等
746 Walker Rd, Box 116
Great Falls, VA 22066
URL:http://www.protectkids.com/donnaricehughes/index.htm

2 調査日時
平成14年8月9日(金)16:30〜17:20

3 Donna Rice Hughes氏について
(1) 「子どもとインターネット」問題に関わるようになった経緯
 1994年、ドナ・ライス・ヒューズ(Donna Rice Hughes)氏は、NPO法人 "Enough Is Enough"の代表であるディー・ジェプセン(Dee Jepsen)氏に会ったことがきっかけとなって、「子どもとインターネット」の問題に関わるようになった。"Enough Is Enough"は、違法ポルノによる子ども、女性及び男性の性的な搾取問題に取り組んでいる団体である。
 "Enough Is Enough"において、彼女は社会にはポルノ問題が広まっていることを知ることとなった。インターネットを通じて大人も子どもも自由に違法ポルノにアクセスすることができる。性的搾取者(sexual predators)は、知らず知らずのうちに家庭の中に入り込み、インターネットを通じて脆弱な子どもと対話をすることができるのである。そのようなオンライン上の危険がますます広がることにより子どもや家族が害を被るだけでなく、そのような間違った使い方や堕落がインターネットそのものに否定的な打撃を与えることとなる。そこで、ヒューズ氏は、ポルノ及び小児性愛者によってそのような価値のあるツールが危険にさらされるのを防ぐことに助力すると決意するに至ったのである。

(2) 活動
 危険を社会に気づかせることが重要であった。ヒューズ氏は、子どもに対するオンライン上の危険のひどい現実を暴露することができれば、子どもをそのような危険から守ることができるし、同時に、ポルノに対するアメリカの考え方を変えるという"Enough Is Enough"の目標を達成することができると確信したのである。サイバー・スペースにおいて子どもを守ることは、公的な機関、産業界及び法執行機関により共有されるべき責任である。この戦略を適切に実行すれば、憲法修正第1条により確立された権利(表現の自由)を侵害することなく、子どもを守ることができるとヒューズ氏は考えている。
 1年間地道に取り組んだ結果、コンピュータ・ポルノと小児性愛者の問題が大きく取り上げられるようになり、ヒューズ氏は、メディアや政治家と協働するようになったのである。

(3) 全国的な運動の展開
 "Enough Is Enough"の中で、ヒューズ氏は、インターネットを子どもにとって安全にするための全国的な運動に、先駆的な役割を果たした。"Enough Is Enough"は、国内で、この運動に専心的な主要団体となった。サウスカロライナ大学のファイ・ベータ・カッパクラブ(Phi Beta Kappa:1776年設立の全米優等学生友愛会)卒業生であるヒューズ氏は、広範囲に話をし、インターネット上の子どもの安全に関する問題について、1,200を超える地方インタビュー、全国的なインタビュー、そして国際的なインタビューを行った。さらに、彼女は、ロサンジェルス・タイムズ、ワシントン・タイムズ、USAトゥデイのような全国紙で注目される、多数の記事を書いた。
 ヒューズ氏は、インターネットの安全のための三本足の戦略の開発及び促進に助力した。この三本足の戦略には、インターネット上において子どもを保護する責任を共有する、公的な機関、産業界及び法執行機関が含まれる。この手法は、多くの産業界や政府指導者により採用された。
 1997年、ヒューズ氏は、子どもに焦点を当てたインターネット・オンライン会議の運営委員会に、"Enough Is Enough"の代表として参加した。1998年には、その会議の公的な教育キャンペーンである"America Links Up"の運営委員会に籍を置いている。また、"GetNetWise"のアドバイザリー・ボードのメンバーでもある。

4 概要
 ドナ・ライス・ヒューズ氏に対するインタビューの概要は、次のとおりである。
(1) 法的規制について 
 米国では印刷物や放送を通して子どものポルノを配信することが法律で禁止されている。
 そこで、インターネット上でも同様に法律で禁止して子どもを保護する必要があるとして、最初に制定されたのがCDA(Communication Decency Act:通信品位法)である(1996年2月)。CDAに含まれるストーキングやハードコア・ポルノを違法とする条項は、異議が提出されなかった。しかし、ソフトコア・ポルノを遮断することは争議となった。(注1)
 CDAが最高裁で却下されたことによりCOPA(Child Online Protection Act:児童オンライン保護法)が成立した(1998年10月)。
 これは、子どもを危険で有害なコンテンツから守るために、ポルノ・サイトの運営者に成人であることを証明するIDを発行し無料映像にシールドをかけることを求めるという、より焦点を絞った法律となった。印刷物に課せられるのと同様の義務付けをインターネット事業者にも求めようとするもので、現在最高裁で審議されている。(注2)
 個人的にはこれらの法律を支持している。なぜなら保護者や教育機関だけに任せるのは無理で、ウェブ上でも法律を行使すること、何らかの規制を行うことが必要であると考えているからである。保護者や教育機関だけでなく、複数の層を重ねるような対応策が必要である。
 CIPA(Children's Internet Protection Act:児童インターネット保護法)は、政府の援助金を受けている学校と図書館に有害サイトのフィルタリングを義務付ける法律である(2000年12月)。
 政府から援助金を受けない場合は、もちろん従う必要はないが、政府の援助金を受けようとする場合には、違法ポルノが学校や図書館のパソコンで閲覧できないようにフィルタリングをしなければならない。(注3)

(注1) CDAは、電気通信装置を用いて、知りながら他人を侵害する目的でわいせつな又は品位のない内容のものを送信すること、及び受信者からの送信要求の有無にかかわらず、受信者が18歳未満であることを知りながらわいせつ又は品位のない内容のものを送信すること、並びに知りながら自らの管理下にある電気通信設備をこれら禁止されている通信に使用させることに対し、25万ドルの罰金若しくは2年以下の拘禁刑又はこれらを併科するものである。
 1996年2月に成立したが、禁止される「indecent(品位のない)」、「patently offensive(明らかに不快な)」の基準が曖昧で不正確である等の理由から、フィラデルフィア連邦地方裁判所は、同年6月に当該部分を違憲であると判断し、さらに1997年6月には連邦最高裁判所が違憲判決を下した。
(注2) COPAは、インターネット上の商用サイトにおいて、知りながら17歳未満の者に有害なものを含む商用目的の通信を行うことに対し、5万ドルの罰金刑若しくは6月以下の拘禁刑又はこれらを併科するものである。
 1998年10月に成立したが、フィラデルフィア連邦地方裁判所は同年11月に施行延期仮決定をし、再度の延長後、1999年2月に合憲性が最終的に判断されるまでの間施行を停止する仮命令を決定した。司法省は連邦控訴裁判所に控訴したが、2000年6月、同裁判所は地裁決定を支持した。このため、さらに上告がなされ、現在、連邦最高裁判所において係争中である。
(注3) CIPAは2000年12月に成立したが、2001年3月にALA(American Library Association)、ACLU(American Civil Liberties Union)により訴訟が提起され、現在のところ施行はされていない。

(2) フィルタリングについて 
 COPA委員会の委員としてフィルタリングに関する公聴会の委員長を務めた(COPA委員会は、2年前に設立された。)。フィルタリングは、現在アクセスできる25種類のカテゴリーを設定できるようになったので、効果が上がっていると考えている。保護者、教育者、司書等がフィルタリングするカテゴリーを選択することができる。
 フィルタリングの意義論については、ALA(American Library Association:米国図書館協会)とACLU(American Civil Liberties Union)の意見には反対である。これらの団体は、エイズに関する情報がフィルタリングされてしまうとして反対しているが、その原因は性教育(sex education)のカテゴリーのフィルタリングがオンに設定されているためである。このようにフィルタリング技術に関する誤解はまだ多い。

(3) レイティングについて
 レイティングに関しては、ICRA(Internet Content Rating Association)が開発したレイティング・システムを評価している。しかし、レイティングが効果的な役割を果たすためには、すべてのインターネット・コンテンツがレイティングされなければならない。そうでなければブラウザで遮断するレイティング、遮断しないレイティングの設定が行えないからである。理想はコンテンツ提供者が自主的にレイティングすることであるが、まだ実現に至っていない。

(4) キャンペーン活動について
ア 保護者の認識
 米国においてもインターネットに関する知識については、子どもの方が保護者よりも勝っているという問題がある。そして、インターネット上の危険性を認識していない保護者が多い。また、多くの保護者が自分の子どもがインターネット上で何らかのトラブルに巻き込まれるとは考えていない。実際にポルノ・サイトの運営者や性的搾取者がインターネットを通して子どもを狙っているにもかかわらず、"Not My Kids"(「自分の子どもは大丈夫」)という意識が強い。

イ 全国的なキャンペーン
 日本においても同様の状況があるのであれば、教育機関やメディアを通して全国的なキャンペーンを実施し、保護者を啓蒙する必要があるのではないか。この場合、子どもが無制限にインターネットにアクセスしているとポルノ・サイトにアクセスしたり、性的搾取者に狙われたりするなどの危険に直面することになるということを知らせるだけでは不十分であり、あわせて子どもを守るための対応策を教える必要がある。
 例えば、パソコンを購入する際に、「子どもとインターネット」の問題についてその危険性や対応策を知ることができるようなシステムはどうか。あるいは、インターネット・サービス・プロバイダーに子ども向けのアクセスを設定させ、その上に保護者が許可するアクセスを加えて設定していくというようなシステムは可能なのではないか。そのほか、PTAなどが保護者向けにパンフレットを作成して配布するということも考えられる。
 米教育省(DOE:Department of Education)は、インターネット・セイフティ・インフォメーションを発行しているが、きちんと行き渡っておらず効果は上がっていないという状況で、米国でも効果的なキャンペーンを実施するのは難しいことである。
 子どもはオンライン上の危険について理解した上で、ポルノを見たり、性的搾取者ともチャットしていると思われる。したがって、保護者を教育すると同時に子どもにも自己防御の手段を教育する必要がある。ただし、子どもは純粋で誰でも信用してしまうところがあるので、困難な面がある。
 ちなみに、COPA委員会は、全国キャンペーンを実施するため、議会に100万ドルの予算措置を要求しているところである。

ウ キャンペーン実施に当たっての必要な3つのステップ
 米国で全国的なキャンペーンを実施する場合には、いくつかの層を重ねるような活動が必要であろう。
 まず第一に、子どもが危険に直面していることを知らせて保護者の関心を集めなければならない。そして、どんな危険があるかを知らせる必要がある。この場合、主に子どもがハード・ポルノ、ソフト・ポルノ、幼児ポルノその他の有害情報にアクセスする危険性があることを知らせることが肝要である。
 第二に、子どもを狙う性的搾取者の存在を知らせる。オンライン・ポルノ業界の性的搾取者の存在や運営手段などは世の中に知らしめる必要がある。ポルノ・サイトの運営者は何百という無料の映像をオンライン上で提供しており、子どもはお金を支払うことなくアクセスできるということを保護者は知る必要がある。
 第三に、性的搾取者は子どものふりをしてアプローチしてくることがあるということも保護者は理解する必要がある。
 以上のように、危険の存在と危険の種類、なぜ危険なのか、どのように性的搾取者が狙ってくるか等を保護者に理解させる必要がある。問題があることに気づいてくれなければ、対応策を提示することもできない。これらが全国キャンペーンに必要な3つのステップであると考える。

(5) 3本足の戦略
 インターネットは悪者ではない。中立のメディアである。しかし、悪人がツールとして利用する場合があるということを理解してもらいたい。
 オンライン上の子どもの安全性について、3本足の椅子のような形で取り組んでいきたいと考えている。
 まず、一本目の足は、社会的な意識(public awareness)を高めるための公の教育(public education)である。この段階でセイフティ・ルールとソフトウェア・ツールに対する理解を深める。セイフティ・ルール、パソコンの使い方などを教えて、ソフトウェアを使用する。
 二本目の足は技術(technology)である。産業界、インターネット・サービス・プロバイダー、ウェブ・オペレーター等と協力して技術を開発し、それを家庭、学校、図書館に提供する。
 三本目の足は、政府と法の執行(law enforcement)である。保護者や学校は、ポルノ・サイトの運営を止めることはできないし、性的搾取者を留置場に放り込むこともできない。子どもの安全のためには、政府や警察の参加が不可欠である。
 しかし、COPPA(Children's Online Privacy Protection Act:児童オンライン・プライバシー保護法)(注4)に抜け穴が存在したり、性的搾取者に対する最高裁の判断などもあり、警察の取締りだけでは子どもを充分に守ることは困難である。そのため、家庭、教育者、学校等は子どもを守るためにより大きな負担を強いられている。
 また、米国で法整備がなされても日本で整備されていなかったり、ロシアから幼児ポルノが入ってきたりすれば元の木阿弥なのであり、このような国際的な問題も存在する。
 総じて言えば、公の教育(public education)が最も重要であると考える。

(注4) COPPAは、13歳未満の児童を対象とする商用サイト及びオンラインサービスの運営者、並びに知りながら13歳未満の児童から個人情報を収集しようとする商用サイト及びオンラインサービスの運営者は、
・ 個人情報の収集、使用、開示についての説明をサイト上に掲げること。
・ 個人情報の収集に先立って個人情報の収集、使用、開示についての確認可能な保護者の同意を得ること。
・ 個人情報を提供した児童の保護者からの求めに応じて、収集した情報の説明や、それ以降の情報の使用、保存を拒絶する機会の提供等を与えること。
・ ゲーム等への参加資格として必要以上の個人情報提供を求めることがないようにすること。
等が義務付けされた。
 1998年10月に成立し、2000年4月から施行されている。

5 その他
 インタビューを行った場所については、ヒューズ氏及びその関係者の強い意向により、掲載しないこととした(上記1記載の住所地ではない。)。
 なお、ヒューズ氏は、インターネット・セイフティに関する自身のウェブ・サイト(http://www.protectkids.com/)を持っているので、参照されたい。

6 コメント
 ドナ・ライス・ヒューズ氏は、「インターネット上の子どもの安全」に関するスポークス・パーソンである。当初の調査対象には予定されていなかったが、調査団内部の打合せの中で、可能ならばインタビューをしたいということになり、急遽実現したものである。インタビュー時間も限られたものであったため、詳細な内容にわたるものとはならなかったが、「インターネット上の子どもの安全」の確保に向けた並々ならぬ決意を感じることができた。それと同時に、インターネットは利便性の高い、重要なツールであるとの前提に立ち、これを守るという観点からも、「インターネット上の子どもの安全」の問題に取り組んでいることも知ることができた。また、「3本足の戦略」により、関係者がそれぞれの立場で、あるいは相互に連携しながら役割を果たしていくことの重要性を改めて認識することができた。特に、興味深かったのは、社会的な意識(public awareness)を高めるための公の教育(public education)の重要性である。日本では、全国的なキャンペーンはまだ見受けられないが、米国でもなかなか難しいという話であった。今後の大きな課題である。

7 参照資料
・ ウェブ・サイト(http://www.protectkids.com/donnaricehughes/index.htm)
・ "Kids Online - Protecting Your Children in Cyberspace -"
1998 by Donna Rice Hughes with Pamela T. campbell
Published by Fleming H. Revell, a division of Baker Book House Company
Second printing, September 1998
・ 「インターネット上の少年に有害なコンテンツ対策研究報告書」(注1〜4)
(平成14年3月 インターネット上の少年に有害なコンテンツ対策研究会)

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