郵政省 「インターネット上の情報流通ルールについて」平成8年度報告書
 − 電気通信サービスにおける情報流通ルールに関する研究会 −
               報告書


               はじめに

 ここ数年のインターネットの急速な普及には目を見張るものがあり、我が国に
おいても、平成9年(1997年)10月現在で、推定利用者約1000万人、
インターネット接続サービス提供事業者の数も、2300社を超えるに至ってい
る。インターネットの普及により、個人が情報を作成し、多数の者に対して発信
することが、これまで以上に容易になるとともに、世界的規模で情報の交流や共
有をすることが可能となった。その結果、インターネットは、高度情報通信社会
における個人の基本的人権ともいうべき「情報発信権」、「情報アクセス権」を
実現する核となるメディアと位置づけることも可能となり、学問研究や政府・企
業活動においてばかりでなく家庭生活や学校教育といったあらゆる分野において、
新しい可能性を開くものとして、その活用が期待されている。

 一方、インターネットにおいては、わいせつ情報や他人を誹謗中傷するといっ
た違法又は有害な情報の流通が大きな社会問題となっており、こうしたインター
ネット利用の影の部分に適切に対応することが重要な政策課題となっている。そ
こで、郵政省電気通信局では、平成8年(1996年)9月から「電気通信にお
ける利用環境整備に関する研究会」を開催し、同年12月に取りまとめた報告書
の中で、この問題に関する論点の整理と当面の対応策の提言を行ったところであ
る。

 本研究会は、上記の研究会のいわば続編であり、今後の課題とされた情報流通
に関する具体的ルールの在り方を探る目的で開催された。中でもインターネット
接続サービス提供事業者の責任の明確化に焦点を置きながら、現行法との関係や
1対1の通信の取扱い等について、有識者、インターネット接続サービス提供事
業者及びインターネット利用者からの意見も参考にしつつ検討を行い、ある程度
の方向性を示したつもりである。しかしながら、未だ議論が十分でなく、今後の
検討に委ねられた点も多く残る結果となった。こうした点については、国際的に
も調和のとれたルールを形成すべく、さらに努力を続ける必要がある。本研究会
の報告書に対して、あるいは今後のあるべきルールについて各方面から幅広い意
見が寄せられることを希望する。


                目  次

はじめに

第1章 インターネット上の情報流通ルールの必要性
 1 情報流通ルールの検討の経緯と課題
 2 情報流通ルールの必要性
 3 通信形態の特徴
 4 違法又は有害なコンテント

第2章 諸外国における情報流通ルールの議論の状況
 1 アメリカ
 2 イギリス
 3 ドイツ
 4 フランス
 5 オーストラリア
 6 シンガポール
 7 EU
 8 OECD
 9 APEC

第3章 情報流通ルールの具体的な在り方
 1 自己責任の原則
 2 情報発信への対応
 3 プロバイダーの責任
 4 発信者情報の開示
 5 受信者の選択を可能とする技術的手段
 6 事後的措置

第4章 まとめ

参考資料 インターネット上における意見募集結果



第1章 インターネット上の情報流通ルールの必要性



1 情報流通ルールの検討の背景
  インターネットの普及により、個人が情報を作成し、多数の者に対して発信
 することが、これまで以上に容易になるとともに、グローバルな規模で情報の
 交流や共有をすることが可能となった。こうした情報環境の変化は、社会経済
 全般に大きな変革をもたらしつつあり、その大部分は、個人の自己表現の発展、
 情報による学術・文化的価値の創出、経済取引の利便性の向上等、我々の文化
 的・経済的・社会的生活を豊かにするものである。
  他方、インターネットの利用に伴う様々な問題も生じてきており、社会的に
 大きな関心を集めている。郵政省電気通信局の「電気通信における利用環境整
 備に関する研究会」が平成8年(1996年)12月に取りまとめた報告書
 「インターネット上の情報流通について」(以下「平成8年報告書」という。)
 では、インターネット上の情報流通の問題点として、以下の5点を指摘してい
 る。

 [1]出版、新聞、放送等と異なり、発信者にプロの職業倫理が働かない。

 [2]発信者に匿名性があるため、無責任な情報発信や違法行為が心理的に容
   易にできる。

 [3]違法な内容の情報があるサーバーから削除されても、別のサーバーに簡
   単かつ迅速にコピーできる。

 [4]ある国が国内法によって違法な情報の流通を禁止しても、別の国で違法
   でなければ、その情報が世界中を流通する。

 [5]特定のインターネット接続サービス提供事業者(パソコン通信サービス
   提供事業者を含む。以下「プロバイダー」という。)が違法な情報の発信
   又は違法な情報へのアクセスを制限しても、他のプロバイダーを利用する
   ことによって、当該情報を発信し又はアクセスすることができる。

  我が国においても、最近の利用者の急速な増加とともに、これらの問題点を
 裏付けるような違法又は有害な情報流通の事例が問題視されている(注1)。
  こうした違法又は有害な情報の流通に対しては、プロバイダーへの苦情も増
 えており、このような場合におけるプロバイダーによる問題解決のための対応
 の在り方等が大きな関心を集めている。


2 情報流通ルールの必要性
  将来、インターネットを経済社会基盤として、国民生活に根付いたものとし、
 インターネットを誰もが安心して利用できるコミュニケーションの手段とする
 ためには、情報の自由な流通を確保しつつ、インターネット上の情報流通に関
 するルール作りを行っていくことが不可欠である。
  インターネット上の情報流通ルールを築き上げていくためには、インターネ
 ット利用者、プロバイダー、政府その他の各当事者が、ルール形成のために積
 極的な役割を果たす責務があるということを自覚することが必要である。

  情報流通ルールの具体的な在り方を検討する前に、インターネットにおける
 通信形態及び違法又は有害なコンテントについて整理しておくこととする。



3 通信形態の特徴
  インターネットは、公衆網や専用線を用いた通信の一種であり、我が国にお
 いては、電気通信事業法をはじめとする通信法体系によって規律されている。
 しかし、インターネットにおいては、電子メールのような1対1の通信に加え、
 WWW(ワールド・ワイド・ウェブ)やネットニュース等、不特定多数の者に
 よって受信されることを目的としており、実質的に通信内容に秘密性が認めら
 れない通信も含まれている。こうしたいわゆる公然性を有する通信は、機能的
 には、公衆(不特定多数)向けの一方向型情報発信としての放送と類似する面
 があり、その影響力において1対1の通信とは類型的に異なることから、通信
 の秘密保護を基本とする1対1の通信とは別個のルールを考える余地があると
 の見解がある。
  もっとも、インターネットが、マス・メディアとしての放送と同列に論じ得
 るだけの影響力を有しているかは必ずしも自明ではないという意見もあり(注
 2)、新たなルールを検討する際には、メディアの特性を考慮した上で、他の
 メディアにおける情報発信に関する規律との調和を図ることも考慮に入れてお
 く必要がある。
  ところで、こうした公然性を有する通信という概念を用いることに対しては、
 対象範囲が不明確である、概念的に矛盾であるといった批判も存在する。たし
 かに、ホームページといってもパスワードを設定してアクセスを制限している
 ようなものは公然性を有するとはいえないのではないかといった指摘や、逆に
 メーリングリストは電子メールの形態をとってはいるが、公然性を有するとい
 えるのではないかといった指摘もある。また、通信は、個対個の関係から抜け
 出すことはできず、公然性ということはありえないとの指摘もある。
  しかし、現実を見てみると、通信という形態をとっていても実質的に通信内
 容に秘密性が認められないものが存在することは事実であり、そうしたものに
 ついては、通信の秘密の保護が求められる1対1の通信とは異なった扱いをす
 ることも可能である。ここでは、そのような通信を指すための道具概念として
 「公然性を有する通信」という言葉を用いているに過ぎず、公然性を有する通
 信という特別の通信類型を設けてそこから一定の結論を導き出そうとするもの
 ではない。したがって、アクセス制限をかけたホームページやメーリングリス
 トについても、これらを公然性を有する通信と呼ぶかが重要なのではなく、個
 々具体的な通信形態に応じた規律を検討していくことが必要である。
  本報告書では、その通信形態から通信内容に秘密性が認められず、また情報
 が不特定多数に流通することから1対1の通信とは異なった扱いをすることが
 適当なものを公然性を有する通信と呼ぶこととし、典型的なものとして、誰で
 もアクセス可能なインターネットのホームページを念頭に置いて検討する。ま
 た、パソコン通信サービスにおける各種のサービス(電子掲示板、フォーラム
 ・SIG等)についても、インターネットのホームページと同様に公然性を有
 する通信の類型に含めて考えることとする。



4 違法又は有害なコンテント
  次に、具体的なルール化を検討するに当たっては、その対象となるべき違法
 又は有害なコンテントについて整理しておく必要がある。平成8年報告書にお
 いては、「刑事処罰の対象となるか又は民事上不法行為を構成する等の違法な
 情報」と「違法な程度に至らない有害なコンテント」という区別をしており、
 本報告書においても基本的にこれを踏襲するが、何が違法で何が有害かは必ず
 しも自明ではない。例えば、1997年(平成9年)11月に発表された欧州
 委員会の「インターネットの安全利用の促進に関する行動計画(案)」におい
 ては、違法な情報(illegal content)の範疇に含まれるもの
 として、よく例に挙げられる児童ポルノの他に以下の事項に反するものを掲げ
 ている。
 ・ 国家の安全保障(爆弾の作り方、麻薬の製造方法、テロ活動を扇動するも
  の)
 ・ 未成年者の保護(悪質な販売行為、暴力、ポルノ)
 ・ 人間的尊厳の保護(人種間の憎悪や差別を煽るもの)
 ・ 経済的安全性(詐欺、クレジットカードの偽造を教示するもの)
 ・ 情報の安全性(悪質なハッキング)
 ・ プライバシー保護(個人情報の不正使用、電子的ハラスメント)
 ・ 名誉の保護(中傷、違法な比較広告)
 ・ 知的所有権(著作権保護を受けているものの無許可での流通)

  これらは、我が国の感覚からすると、かなり広範であり、公序良俗違反も含
 んだ概念といってよいように思われる。
  他方、有害な情報(harmful content)とは、流通自体は許
 されているが制限されているもの(例として成人向け情報)及びある利用者の
 感情を害し得るが、表現の自由の観点から発表が制限されていない情報を意味
 するとされている。
  我が国における具体的な情報流通ルールを検討するに当たっては、情報発信
 者又はプロバイダーに法的な責任が生じるか否かが一つの大きなポイントにな
 ると思われることから、本報告書では、法令の規定に違反し又は他人の権利を
 侵害する情報を「違法な情報」、それ以外の社会通念上好ましくないと思われ
 る情報を「有害な情報」と呼ぶこととする。

 (注1)とくに世間の耳目を集めた平成9年(1997年)6月のいわゆる神
    戸小学生殺害事件の際には、容疑者逮捕の直後、あるホームページの掲
    示板に、事件とは無関係の「サカキバラ」姓の個人情報が書き込まれた
    り、容疑者の少年の名前は「○○らしい」という誤った情報や、「○○」
    という名字の人の個人情報が流された。また、別のホームページにも、
    当該事件に関するコーナーが設けられ、容疑者の少年の実名であるとす
    る情報が掲載されるに至った。さらに海外のプロバイダーのホームペー
    ジを通して、実名であるとする名前が書き込まれ、顔写真も掲載された。

 (注2)テレビ及びラジオの1週間の平均視聴時間量は、それぞれ26時間2
    9分及び4時間55分(平成9年通信白書)であるのに対し、インター
    ネットの週平均のアクセス時間は6.3時間(Yahoo!JAPAN
    第2回ウエッブ・ユーザー・アンケート)となっている。
     また別の指標として、例えば、平成9年の通信白書では、「情報流通
    センサス」による情報流通量の分析を行っているが、そのデータから消
    費情報量(電話等で受信者が受け取った情報量や視聴者が実際に視聴し
    た放送番組の情報量等)を計量した場合、インターネット及びパソコン
    通信の消費情報量を1とすると、AM・FMラジオ放送で25、ケーブ
    ルテレビ放送で366、地上テレビ放送で940という結果になる(な
    お、「情報流通センサス」では、多様なメディアを通じて流通する情報
    を、日本語の1語に相当する「ワード」という共通の尺度を用いて計量
    している。)。


第2章 諸外国における情報流通ルールの議論の状況

 インターネット上の情報は、国境を越えて流通するため、我が国におけるイン
ターネット上の情報流通ルールの在り方を検討するに当たっても、諸外国におけ
る情報流通ルールの議論の状況を十分把握した上で、国際的にも調和のとれたル
ール作りを目指していく必要がある。本研究会では、このような観点から諸外国
の議論の状況を調査・分析した。また、国際機関における検討のうち、本研究会
関係者が直接又は間接に携わったものを取り上げた。



1 アメリカ

 (1)概説
    1996年(平成8年)2月、1934年通信法(Communications 
   Act of 1934)が1996年電気通信法(Telecommunications Act of
   1996)によって改正され、インターネット等における情報発信の規制やプ
   ロバイダーの責任等についての規定が新たに追加された。1997年(平
   成9年)6月26日、連邦最高裁判所は、1996年電気通信法中の「下
   品な」(indecent)及び「明らかに不快な」(patently offensive)の
   文言は過度にあいまいであり、憲法修正第1条(表現の自由)に違反する
   として違憲判決を下した。
    これを受けて、アメリカでは、自主規制による対応及び技術的対応(フ
   ィルタリング等)をさらに推進していくこととしており、クリントン大統
   領は1997年(平成9年)7月16日、子どもを有害情報から守るため
   のフィルタリング・ソフトの活用等業界の自主規制による対応を要請した。

 (2)通信品位法の内容

  [1]概要
     1996年電気通信法は、その中の「第V編 わいせつ及び暴力」に
    インターネット等の電気通信を規制する規定を設けた。この第V編は、
    「1996年通信品位法」(Communications Decency Act of 1996:
    以下「CDA法」という。)と称されている。

  [2]CDA法により、1934年通信法(合衆国法典第47編)第223
    条等が改正され、次のように規定された。
     故意に次の行為を行った者に刑事罰を課すことを規定。

   ア.電気通信装置(電話、ファックス、パソコン等)により、わいせつ、
    淫ら、好色又は下品な(indecent)情報を、いやがらせ、脅迫
    等の目的で作成し発信した者、又は受信者が18歳未満であることを知
    りながら作成し発信した者(受信者からの要求に応じた場合も処罰の対
    象)。
    (合衆国法典第47編第223条(a)(1)A、B)

   イ.いやがらせ、脅迫等の目的で、名乗らずに電気通信装置による通信を
    行った者。(名乗っても)専らいやがらせ目的で繰り返し、電気通信装
    置による通信を行った者。(同条(a)(1)C、E)
    ※ 上記規定は、電話のみが対象であった既存の規定について、ファッ
     クス、パソコン通信等を含む電気通信装置までにその対象を拡大した。

   ウ.いやがらせの目的で、電話の呼び鈴を鳴り続けさせ又は何度も鳴らせ
    た者。(同条(a)(1)D)

   エ.インターネット等の双方向のコンピュータ通信サービスにより、現代
    社会の基準に照らして明らかに不快な(patently offensive)、性行
    為を描写する音声、画像その他の情報を、18歳未満の者に送信、又は
    18歳未満の者に入手が可能な方法で陳列した者。(同条(d)(1))

    ※ インターネット等に対し、電話による情報サービスに関する既存の
     規定とほぼ同様の規定を新設した。

  [3]刑法の改正
     CDA法によって、刑法(合衆国法典第18編)第1462条及び第
    1465条が改正された。わいせつ物の輸入又は輸送に関する罪に関す
    る条項に、「コモンキャリア」を利用した伝達に加え「双方向コンピュ
    ータ・サービス事業者」を利用する場合を追加し、コンピュータの使用
    によるわいせつな情報の通信に対する刑法の同条項の適用を明確化した。

  [4]プロバイダーの責任

   ア.刑事責任

   (1)自己のコントロールする電気通信設備が上記[2]の各行為のため
     に利用されることを意図して、利用することを許可した者には、刑事
     罰が課せられる。(合衆国法典第47編第223条(a)(2)及び
     同条(d)(2))
    ※ 電気通信事業者の罪について、従来電話のみを対象とした規定を拡
     大した。

   (2)刑事訴追の抗弁

    a)「いかなる者も、自らの支配下にない設備、システム若しくはネッ
     トワークへのアクセス若しくは接続又はこれらからのアクセス若しく
     は接続を提供したという理由のみにより、(a)項又は(d)項(上
     記[2])に違反したとみなしてはならない。(以下略)」(同条
     (e)(1))(「前項に規定する防御は、本条に違反する通信の作
     成若しくはその故意の頒布に積極的に関わっている企業との共謀者、
     又は当該通信の利用可能性を故意に宣伝する者には適用しない。」
     (同条(e)(2))また「本条の違反に関係する設備、システム又
     はネットワークへのアクセス又は接続を提供する者であって、自らが
     当該設備、システム又はネットワークを所有し又は支配する者には適
     用しない。」(同条(e)(3)))

    b)雇用主は、被用者又は代理人の行為がその雇用又は代理権の範囲外
     であり、かつその行為について雇用主が知った上でそれを承認若しく
     は追認せず又は無視しない限りは、当該行為に関する責任を負わない。
     (同条(e)(4))

    c)自らの支配下にない設備によるアクセス若しくは接続である場合、
     上記[2]の各行為については未成年者によるアクセスを防止するた
     めの適切な措置(技術的処置、加入時のチェック等)を誠実に取った
     場合等は責任を負わない。(同条(e)(5))
    ※ 刑事訴追の抗弁を規定。「適切な措置」についてFCCが定めを置
     くことができるが強制力のあるものとはできない。

   イ.民事責任(合衆国法典第47編第230条(c)「グッドサマリタン
    条項」(注3))

   (1)「双方向コンピュータ・サービスの提供者または利用者は、別のコ
     ンテント提供者が提供する情報の発行者(publisher)又は
     代弁者(speaker)として扱われない。」

   (2)「いかなる双方向コンピュータ・サービスの提供者又は利用者も、
     次の事項を理由として責任があるとみなしてはならない。

    (a)当該提供者又は利用者がわいせつな、淫らな、好色な、卑猥な、
      過度に暴力的な、困惑させるようなその他の好ましくないと判断し
      た素材が憲法上保護されているかどうかにかかわらず、当該素材へ
      のアクセス又はその利用可能性を制限するために誠実に、かつ、任
      意にとった措置。

    (b)(1)に規定する素材へのアクセスを制限する技術的手段を可能
      にし、又は情報コンテンツ提供者その他の者に該当手段を利用可能
      とするためとる措置。」

 (3)CDA法の違憲判決
    1996年(平成8年)2月8日、アメリカ市民自由連合(ACLU)
   を中心とした市民団体や、大手パソコン通信事業者等の有力企業団体が、
   CDA法は憲法修正1条(表現の自由)に反するとして訴えを提起した。
    原告らは、1996年電気通信法で改正された合衆国法典第47編第2
   23条(a)(1)(B)と同条(d)について、この条文で用いられて
   いる「下品な」(indecent)及び「明らかに不快な」(patently 
   offensive)という基準が刑事罰を設ける場合に必要とされるだけの具体
   性を備えていないため(連邦憲法修正1条によって保護されない「わいせ
   つ」と異なり、従来「下品」は保護の対象となる、とされてきた)、ネッ
   トワーク利用者の言論に対して過剰に抑止的な効果を与えると主張し、同
   法の適用を禁じる本案的差止命令(perpetual injunction)の発給を求
   めた。
    1996年(平成8年)6月12日、フィラデルフィア連邦地裁は、同
   法の「下品な」(indecent)及び「明らかに不快な」(patently 
   offensive)規定を過度にあいまいで違憲として、施行を一時的に差し止
   める決定をした。
    同年7月2日、米司法省はフィラデルフィア連邦地裁の決定を不服とし
   て、直接連邦最高裁判所に上告したが、1997年(平成9年)6月26
   日、連邦最高裁判所は、フィラデルフィア連邦地裁と同様に同条項が言論
   の自由を保障する憲法修正第1条に違反する旨の判決を下した(注4)。

 (4)クリントン大統領の声明
    連邦最高裁の判決を受けて、1997年(平成9年)7月16日、クリ
   ントン大統領は、次のように新たなインターネット振興策を発表した。こ
   の中で、大統領は、「わいせつ情報は法的に規制するのではなく、民間の
   自主規制に委ねる」との基本方針を打ち出し、新しい技術・現行法の執行
   (適用)・親の積極的な参画が不可欠であるとしている。

  [1]新しい技術
     インターネットを質の高い教育のための手段として活用するため、子
    どもにとって不適切なコンテントへのアクセスを遮断するフィルタリン
    グ及びレイティング技術を積極的に活用していく。

  [2]現行法の執行
     過去3ヶ月の間にFBIにコンピュータ関連の捜査官を50%増員す
    るなどして、青少年を対象にしたネット上のポルノ等の現行法による摘
    発を強化していく。

  [3]親の積極的な参画
     親や学校の教師等は、子どもによるインターネットの利用に対して、
    より積極的に関与していくべきであり、親たちがこれらの技術を使いこ
    なすことができるよう多様な支援をしていく。

 (5)インターネット・オンラインサミットの開催
    1997年(平成9年)12月1日から3日まで、子どもをインターネ
   ットポルノや犯罪から守る方策を協議する「インターネット・オンライン
   サミット」が、非営利団体の主催によりワシントンD.C.で開催された。
   この中で、2日、ゴア副大統領による演説も行われ、同副大統領は、

  [1]保護者に、インターネット利用ガイドを無償で提供すること

  [2]子どもを児童ポルノから守るためのホットライン(CyberTip Line)
    を創設すること

  [3]プロバイダー業界と司法当局の協力により、児童ポルノに関する犯罪
    に厳正に対処していくこと

  [4]「Think Then Link」(考えてからリンクしよう)キャンペーンを実
    施すること

  [5]フォローアップのために、一連の会議を開催すること

   等を表明した。

 (6)プロバイダーの責任に関する判例の動向
    アメリカの判例においては、名誉毀損の責任との関係で「出版者」
   (”publisher”)として高度の責任基準が適用されるのか(新聞社、雑
   誌社、放送局等)、「配布者」(”distributor”)としてコンテントが
   違法であることを知っていたか知るべき理由があったことが立証されたと
   きに限って責任があるとされるのか(書店や図書館等)、あるいはコモン
   ・キャリアとしてコンテントについての責任は負わないのか(電話会社等)
   が従来より議論されてきている。

  [1]コンピューサーブ判決(Cubby Inc. v. Compuserve Inc.. 776 
    F.Supp. 135 (S.D.N.Y. 1991))
     プロバイダーは“distributor”であると認定され、「違法な情報の
    存在を知り又は知るべき理由がある場合に限り」責任を負うとされた。

  [2]プロディジィ判決(Stratton Oakmonnt, Inc. v. Prodigy Services
    Co., 1995 NY Misc. Lexis 229)
     プロバイダーは編集権を行使している以上、“publisher”としての
    責任を負うとされた。

   しかし、このプロディジィ判決に従うと、違法・有害な情報の流通を阻止
  しようと努力するプロバイダーほど重い責任を負わされるということになる
  という不合理な結論となる。これに対する反省から、CDA法において、プ
  ロバイダーは“publisher”又は“speaker”とはみなされないこと(合衆
  国法典第47編第230条(c)(1))、また、好ましくないと判断した
  情報へのアクセスを自主的に制限しても、責任を問われることはないこと
  (同条(c)(2)(B))等の規定(いわゆるグッドサマリタン条項)が
  盛り込まれた。(前述(2))

  [3]ゼラン対アメリカ・オンライン判決(Zeran v. America Online Inc.,
    No.97-1523(4th Cir. 1997))

  <事件の概要>

   ア.1995年(平成7年)4月25日、アメリカ・オンライン社(以下
    「AOL」という。)の提供する掲示板に、正体不明の第三者が、オク
    ラホマ州連邦政府ビルの爆破(1995年(平成7年)4月19日発生)
    を賞賛し、また、ビルの爆破を賞賛するTシャツを販売する旨の書き込
    みをし、連絡先として、ケン・ゼラン氏(原告)の電話番号を掲載した。

   イ.これにより、ゼラン氏宅に抗議、脅迫等の電話が殺到し、ゼラン氏は
    AOLに対して当該情報を削除するよう求め、AOLも削除を約束した
    が、同年4月26日以降もAOLの掲示板に書き込みが数回なされ、ゼ
    ラン氏は同年4月30日までの間に、およそ2分間に1回の割合で電話
    を受けた。

   ウ.ゼラン氏は、何度もAOLに対して書き込みがある旨を通知し、削除
    を要求したが、AOLが掲載された中傷の書き込みを削除することを不
    当に遅らせ、またそれらのメッセージの掲載を停止することを拒んだこ
    とにより、被害を受けたとして、AOLには“distributor”として、
    書き込みの存在を知っていながら削除しなかったことについて責任があ
    るとして、AOLを訴えた。
     第4巡回区連邦控訴裁判所は、プロバイダーには、合衆国法典第47
    編第230条(c)(1)を根拠に、“publisher”としての責任も
    “distributor”としての責任もないとした。

  <判決の概要>

   エ.プロバイダーに会員のコンテントに対する不法行為責任を課すことは、
    言論の自由に対する萎縮効果(chilling effect)を生ぜしめることに
    つながる。というのは、プロバイダーは全ての会員のコンテントを監視
    することは不可能であるから、プロバイダーに“publisher”としての
    責任を課せば、プロバイダーは、書き込まれるメッセージの数とタイプ
    を厳しく制限することになるであろうからである。

   オ.また、プロバイダーに会員のコンテントに対する不法行為責任を課す
    ことは、プロバイダーによる自主規制に対するディスインセンティブと
    なる。というのは、プロバイダーが会員のコンテントに対する関わりを
    持てば、それだけ、それら会員のコンテントに対する責任を負うことと
    なるからである。

   カ.“publisher”と“distributor”の区別は明らかではない。“
    distributor”は、“publisher”の一類型に過ぎず、情報発信者がコ
    ンテントに関する責任を一元的に負うのであって、コンテントに対する
    第三者としての関わりということに変わりはない。(Prodigy判決に言
    う“publisher”とCompuserve判決に言う“distributor”は異なる責
    任基準を設定するための区別に過ぎない。いずれの責任をプロバイダー
    に課すとしても、言論の自由への萎縮効果と自主規制に対するディスイ
    ンセンティブという点で変わりはない。)

   今後も、アメリカにおける判例の動向には注目していく必要がある。


2 イギリス

 (1)既存の法律の適用
    インターネットにも既存の法律の適用がある。インターネット上の情報
   流通に対する適用を明確にするために改正されたものもある。

  [1]「名誉毀損法」(Defamation Act 1952)
     他人の名誉を毀損する行為が規制されるが、1996年(平成8年)
    に改正され(Defamation Act 1996)、インターネット上での名誉毀損
    についても同法が適用されることが明確になった。

  [2]「わいせつ出版法」(Obscene Publication Act 1959)
    わいせつな表現を含む出版物が規制されるが、Criminal Justice and
   Public Order Act 1994において、「出版(publishing)」という概念に
   インターネットによる情報発信が含まれることとなり、インターネット上
   でのわいせつ表現にもわいせつ出版法が適用されることが明確になった。
   (免責については、後述)

  [3]「児童保護法」(Protection of Children Act 1978)
     児童ポルノに該当するものの製造、販売、所持が規制されるが、
    Criminal Justice and Public Order Act 1994において、インター
    ネット上での児童ポルノに関する情報にも児童保護法(及びCriminal
    Justice Act 1988)が適用されることが明確になった。

 (2)インターネット監視財団(Internet Watch Foundation)の活動

  [1]「R3セイフティネット」(自主規制スキーム)の推進
     1996年(平成8年)9月23日、インターネットサービスプロバ
    イダー協会(ISPA)、ロンドン・インターネット・エクスチェンジ
    (LINX)及びセイフティネット財団の三者が、インターネット・コ
    ンテントを業界で自主的に規律しようとする提案(自主規制スキーム)
    を発表したが、これをインターネット監視財団(1996年(平成8年)
    12月にセイフティネット財団を改称)が運営している。概要は下記の
    とおりである。
   ・ インターネット上のコンテントの合法性を評価
   ・ ホットラインを設置し、一般からの児童ポルノや他の違法なコンテン
    トに関する苦情を受け付ける。
   ・ 違法なコンテントへの対応としては、作成者にその排除を要請し、協
    力が得られない場合、プロバイダーに措置を要請するとともに、警察に
    連絡する。
    ※「R3」=評価(Rating)、報告(Report)、責任(Responsibility)

  [2]レイティング及びフィルタリングに関する国際的な検討
     1997年(平成9年)9月29日、インターネット監視財団は、欧
    州、アメリカ、オーストラリアの産業界からの代表による会合
    (International Working Group of Content Rating)を開催した。
    このねらいは、民間ベースで、国際的なレイティング及びフィルタリン
    グに関する規律を策定することである。この会合において、以下の原則
    が合意された。
   ・ 自主的かつ国際的に受け入れられる格付けシステムであること
   ・ 客観的で、特定の文化に偏ったものでないこと
   ・ 利用者にとって操作しやすいものであること 他

 (3)プロバイダーの責任に関する法制度

  [1]「名誉毀損法」における免責規定
     1996年(平成8年)7月4日、(Defamation Act 1952)が改正
    され、インターネット上での名誉毀損行為についてのプロバイダーの免
    責規定が新たに設けられた。

   ア.他人の名誉を毀損する表現の配付に携わった者であっても、
   (1)作者、編集者、発表者ではない
   (2)自身の有効な管理下にない者による情報の公表に際し十分な注意を
     払っていた
   (3)その内容が名誉毀損を起こすことがわからなかった(と信じる理由
     がある)ことを証明すれば、免責される。(第1条第1項)

   イ.プロバイダー等は、作者、編集者、発表者ではないことが明記。

  [2]わいせつ出版法における免責規定
     出版者(プロバイダー)は善意であることを自ら立証した場合には、
    免責される。(第2条第5項)



3 ドイツ

 (1)マルチメディア法の概要とその施行
    インターネット等による電子商取引やその他マルチメディアサービスの
   利用に関する法的枠組みの整備を推進するため、1997年(平成9年)
   7月4日、「情報通信サービスの基本条件の規制に関する法律」(通称
   「マルチメディア法」)がドイツ上院において可決され、同年8月1日か
   ら施行された。
    マルチメディア法は枠組みに関する法律であるので、内容的には3つの
   新法(「テレサービスの利用に関する法律」、「テレサービスに際しての
   個人情報保護に関する法律」及び「デジタル署名に関する法律」)と6つ
   の法律の改正(刑法、秩序違反法、青少年に有害な文書の流布に関する法
   律、著作権法等)からなっている。

  [1]テレサービスの利用に関する法律
     「テレサービス」と称する概念を設定し、サービス提供の自由、サー
    ビス提供者の責任義務等を定めている。

   ア.定義:「テレサービス」とは、文字、画像、音声の組み合わせによる
    データの個人的利用のための、電気通信を用いて提供されるあらゆる情
    報サービスをいう。有償・無償を問わない。インターネット接続サービ
    スから交通、天気、株式に関する情報提供やオンライン・バンキング等
    まで広く対象とする。

   イ.サービス提供者の責任
   (1)自ら提供するコンテントについては、一般法の規定に従って責任を
     負う。
   (2)第三者が提供する情報については、その内容を知りかつその利用を
     防止することが技術的に可能で期待可能な場合に限り責任を負う。
   (3)アクセスを提供するだけの場合、第三者の情報には責任を負わない。

   ウ.当局の説明によれば、違法性、有害性の判断は、プロバイダーが自然
    な法感覚に従って行うこととされている。また、期待可能性の判断もプ
    ロバイダーが行う。期待可能性はドイツ法上一般的な概念であるが、明
    確な概念ではなく、その程度は、個々のケースで異なる。

  [2]既存の法律を「テレサービス」利用に適合させるための法改正
     上記[1]の「テレサービスの利用に関する法律」自体は、違法・有
    害情報の発信を規制しているわけではない。これらの発信規制は他の法
    律(刑法及び青少年に有害な文書の流布に関する法律等)に規定されて
    いる。

   ア.刑法、秩序違反法の改正
   (1)コンピュータ通信への適用を明確化
   (2)発信規制としては、例えば、国民の一部を人種、宗教的な理由で排
     斥することを扇動するような文書、又は、残酷若しくは非人間的な暴
     力行為を描写した文書を配布等することが禁止されている(刑法第1
     30条、同法第131条)。ポルノ文書を18歳未満の者に配布する
     ことも禁止される(同法第184条)。

   イ.青少年に有害な文書の流布に関する法律の改正(青少年保護担当者の
    指名)
   (1)コンピュータ通信への適用を明確化
   (2)連邦審査局(Bundespruefstelle)が未成年にとって有害な文書
     (暴力犯罪、人種排斥を助長するもの、戦争を賛美するもの等)を指
     定し、そのリストを公表する。このリストに載せられた文書は、未成
     年者への配布等が禁止されている。
   (3)電子的情報通信サービスを事業として一般公衆に対して行う事業者
     は、未成年者に有害なコンテントを含む可能性がある場合は、自らの
     組織内に「青少年保護担当者」を設けることが義務づけられる。担当
     者は、利用者との接触窓口となり、青少年保護の問題について事業者
     に助言を行うほか、特定のサービスを制限するよう勧告することもで
     きる。

   (4)また、事業者は青少年保護担当者の指名に代えて、自主規制団体に
     上記の業務を果たさせることを選択することができる。

 (2)民間団体の動き
    「青少年に有害な文書の流布に関する法律」の改正法第7条第a項に基
   づいて、法案成立後の1997年(平成9年)7月9日、マルチメディア
   関連企業は「マルチメディアサービス提供者自主的自己規制協会(FSM)」
   を発足させた。

  [1]構成
     発足段階で、少なくともドイツ国内の半分以上のプロバイダーや関連
    企業が参加している。

  [2]業務
     協会に寄せられた情報をもとに、会員に対する注意喚起から、悪質な
    場合は会員名の公表まで三段階の制裁を課すことが主眼である。また、
    非会員のプロバイダーに対しても苦情内容について連絡し、暗に改善を
    促す。



4 フランス

 (1)法律による規制の動向
    フランスにおいては、特に法改正によって、インターネットへの適用を
   明確にしているというわけではないが、インターネット上での違法情報の
   発信に対しては一般法の適用がある。既存の法律では追求することのでき
   ないプロバイダーの責任等について、通信法の改正によって対応すること
   とした。

  [1]プロバイダー責任に関する法改正
     フランス政府は、1996年(平成8年)4月、電気通信規制法を改
    正した。
     政府原案では、電気通信規制法に第43条の1、同条の2及び同条の
    3の3条項が加わることとされていた。

   ア.第43条の1
     インターネットプロバイダーにフィルタリング技術の提供を義務づけ
    る。

   イ.第43条の2
     行政(独立行政委員会)による規律(倫理基準遵守勧告、苦情受付、
    検察への通知)を定める。

   ウ.第43条の3
     第43の1に規定するフィルタリング技術を提供し、第43条の2の
   規律を遵守するプロバイダーを免責する。

  [2]憲法院による違憲判断
     同年6月、国民議会においても採択されたが、同年7月、憲法院は規
    定があいまいとして、上記3条項のうち、第43条の2及び第43条の
    3を違憲とした。
     「第15条により『通信の自由に関する1986年9月30日の法律』
    に挿入された第43条の2及び第43条の3は憲法に違反する。」
   (理由)
     第43条の2第1項は、その意見が刑事訴追に結び付く可能性がある
    にもかかわらずテレマティック高等評議会に対し無制約の倫理規定提案
    権限を与えており、かつ、他の制約も極めて一般的なものであるので、
    同項は憲法に違反する。第43条の2のその他の項及び第43条の3は
    第43条の2第1項と不可分である。」
     これにより、改正電気通信規制法上は、第43条の1のみが残ること
    となった(注5)。

 (2)民間団体の動き
    テレマティック・サービス事業者団体(GESTE)会長の率いる作業
   班によって「インターネット憲章」案が作成され、1997年(平成9年)
   3月、フィヨン仏通信担当相に提示された。(この憲章の作成は、フィヨ
   ン大臣の要請により行われた。)
    憲章案は、インターネットに適用される基本的な職業倫理(未成年者及
   び人間の尊厳の保護、治安の尊重、自由及び基本的権利、知的所有権並び
   に消費者保護)を定めている。また、自主規制の推進と調停役を務める
   「インターネット評議会」の設置が提案された。同評議会は、非営利のコ
   ンテント提供者(大学等)、営利のコンテント提供者(マスコミ、銀行、
   流通等)、技術サプライヤー(プロバイダー等)からの代表3名が構成し、
   人間の尊厳が無視されたコンテント等について排除を求める。また排除さ
   れなかった場合は、技術的に同サイトへのアクセスをブロックすることを
   技術担当者に要請する。提案では、同評議会の見解が法的強制力を持つ方
   向で計画を進めたいとしているが、当面は憲章に調印した仏国内のインタ
   ーネット関係者に対し、効力を持つに留まっている。



5 オーストラリア

 (1)概要

  [1]1996年(平成8年)6月30日、オーストラリア放送庁(Australia
    Broadcasting Authority:以下「ABA」という。)は、「オンライ
    ンサービスのコンテントに関する調査」と題するレポートを通信芸術相
    に提出した。

  [2]1997年(平成9年)7月のOECDの場においても、ABAはこ
    れと同趣旨の提案をしている。その概要は、

   ・ プロバイダーの実施規約(Codes of Practice)に基づく自主規制の
    枠組みが構築されるべきであること

   ・ 不適切なコンテントへのアクセスから子どもを守るための技術(レイ
    ティング及びフィルタリング)を活用すること

   ・ 特に、児童ポルノ等の違法なコンテントから子どもを守るための「ホ
    ットライン」を創設すること

   ・ インターネット等の十分な理解と有効な活用のためのコミュニティ教
    育を推進すること

  である。

  [3]さらに、同年10月1日にABAが発表した国連教育科学文化機構
    (UNESCO)の「インターネット・コンテントに関する国際的な規
    制の課題」の報告(オーストラリア、シンガポール、マレーシア、イギ
    リスの4ヶ国におけるオンラインサービスのインパクトを調査したもの)
    の中でも、一環して同じ提案を行っている。

 (2)国際協調のための動き
    オーストラリアは、国際協調のための活動を積極的に行っており、OE
   CDやAPEC等の他、前述のとおり、インターネット監視財団
   (Internet Watch Foundation)が中心となっている国際的なレイティン
   グに関する会合(International Working Group of Content Rating)
   にも参画している。



6 シンガポール

 (1)規制の概要
    1996年(平成8年)7月11日、シンガポール放送庁(以下「SB
   A」という。)は、「インターネット規制に関するクラスライセンス制度」
   及び「インターネットコンテントに関するガイドライン」を発表(同月15
   日施行)し、インターネット規制策を明確にした。

  [1]インターネット規制に関するクラスライセンス制度
     クラスライセンスとは、一定の範囲に該当する者が通知又は登録を行
    えば、自動的に免許を与える仕組みであり、規制対象となるプロバイダ
    ーは、インターネットサービスプロバイダー(以下「ISP」という。)
    とインターネットコンテントプロバイダー(以下「ICP」という。)
    とに分かれる。

   ア.ISP
     (1)SBAへの登録義務、(2)SBAが接続の禁止を求めたサイ
    トに対する接続の停止、等の義務がある。

   イ.ICP
     (1)シンガポールで登録されている政党、(2)シンガポールに関
    する政治的・宗教的議論に携わっているグループ、(3)政治的・宗教
    的目的のためにホームページを提供し、放送庁により登録を通告されて
    いる個人等が登録の義務がある。

  [2]インターネットコンテントに関するガイドライン
     当初は、(1)公共の安全と国防、(2)人種的・宗教的調和、(3)
    公共道徳、を害するコンテントの発信を禁止していた。しかしながら、
    1997年(平成9年)11月1日より、(1)公共の安全と国防を害
    するコンテントの規定を削除するなど政治に関連する情報についての規
    制を緩和した。周辺諸外国との競争上、規制緩和に踏み切ったと見られ
    ている。

 (2)プロバイダーの責任について
    違法・有害情報に対するプロバイダーの責任について、特に法律による
   規制はない。SBAが接続の禁止を求めたサイトに対してのブロッキング
   等の義務を怠ると罰金を課せられたり、免許を取り上げられる可能性はあ
   る。



7 欧州連合(EU)

 (1)違法・有害なコンテントに関する欧州理事会決議
    1997年(平成9年)2月17日、欧州理事会(The Council of
   European Union)において、インターネット上の違法又は有害なコンテン
   トに関する決議がなされた。具体的な内容(抜粋)は、以下のとおりであ
   る。

  [1]1996年(平成9年)10月16日に欧州委員会(The European
    Commission)から出された「インターネット上の違法・有害なコンテン
    トに関する報告書」及び「未成年と人間の尊厳の保護に関するグリーン
    ペーパー」を踏まえて、ここに述べられた提案の検討を歓迎する。

  [2]加盟諸国に以下の措置を要請する。

   ・ プロバイダーの自主規制、実効性ある行為規範、公衆に利用可能なホ
    ットラインにおける報告機能の奨励と促進を行うこと

   ・ ユーザーへのフィルタリング機能の提供と、格付けシステムの設定の
    奨励と促進を行うこと

  [3]欧州委員会に以下の事項を要請する。

   ・ 上述の報告書の提案された措置に関する作業を一貫性をもってフォロ
    ーアップすること

   ・ フィルタリング、格付け等に関する技術的問題の研究を促進すること

   ・ コンテントに関する法的責任の問題をさらに詳しく検討すること

 (2)未成年と人間の尊厳の保護に関する欧州委員会報告書
    1997年(平成9年)11月18日、欧州委員会は、「未成年と人間
   の尊厳の保護に関する報告書」を発表した。
    本報告書は、1996年(平成8年)10月16日に発表されたグリー
   ンペーパーの見直しの結果、及びそれを踏まえた理事会決議(案)からな
   っている。今回の決議(案)は、追求する各国共通の目的を明確にし、欧
   州レベルでの協力の分野と安定的な協力体制を確認するものである。見直
   しの結果として、各国レベルでの自主規制こそが、未成年及び人間の尊厳
   を保護するための最も適切な答えであるということが示された、としてい
   る。
    本決議(案)は、EUとして、以下の点を推進していくべきとしている。

  [1]グリーンペーパーのアプローチに従って未成年と人間の尊厳の保護に
    関する問題に対処するための方法論を構築する。

  [2]未成年と人間の尊厳を保護するため、各国における自主規制の枠組み
    を推進していくためのガイドラインを制定する。

  [3]未成年を含む公衆に対して、新しいサービスにさらなるアクセスの提
    供・未成年のためのコンテントの質の向上・人間の尊厳に反するコンテ
    ントの排除・親によるコントロールのための新しい手段の開発を主導し
    ていく。

 (3)インターネットの安全利用の促進に関する委員会行動計画(案)
    1997年(平成9年)11月26日、欧州委員会は、「インターネッ
   トの安全な利用の促進に関する行動計画(案)」を発表した。
    この行動計画(案)は、上記の理事会決議(案)と密接に関わっており、
   決議(案)が欧州各国が法制を検討するに当たっての基準を提示している
   のに対して、本行動計画(案)は、利用者の信頼の確保、欧州のインター
   ネット産業の成長のための環境整備、違法又は有害なコンテントへの対応
   等を目指した具体的な行動を内容としている。
    本行動計画(案)は、

  [1]苦情処理センター(ホットライン)の設置と業界の自主規制による安
    全な環境の実現

  [2]フィルタリング及びレイティング・システムの開発促進

  [3]これらに関する業界及び利用者への周知及び注意喚起の推進

   からなる。本行動計画(案)は、今後、議会の意見を聞いた上で、理事会
  で決定される予定である。



8 経済協力開発機構(OECD)

 (1)最近までの動き
    OECDでは、インターネット上の情報流通に関するルール作りについ
   て、積極的な議論が進められてきた。1996年(平成8年)2月にキャ
   ンベラで開催されたICCP(情報・コンピュータ・通信政策委員会)の
   会合において、インターネットのルール化に関する国際的ガイドライン作
   成の必要性について議論された。その後、同年6月にダブリンで開催され
   たワークショップにおいても国際的な協力の枠組みの必要性について議論
   され、同年10月のソウルで開催されたワークショップにおいては、フラ
   ンスからインターネットに関する国際協力協定の提案があった。
    1997年(平成9年)2月のICCPの会合においては、引き続き、
   インターネット上の違法・有害な情報の流通に関して、各国の法規制や取
   組みの比較等についての研究・分析を行っていくこととされた。

 (2)インターネット・コンテント・アドホック会合の開催
    1997年(平成9年)7月に第1回会合が開催され、各国の法規制の
   現状や取組み等が紹介され、事務局がインベントリー・レポートを作成す
   ることとなった。また、同年10月には第2回会合が開催され、その後の
   各国における取組みの紹介と、インベントリー・レポートの改訂について
   議論がなされた。
    会合では、「国際協力の分野を考えるべき」「インベントリーの作業に
   基づき、解決の方法や国際協調の方法を考えるべき」等の意見や「民間の
   活動・努力を重視し、これ以上の作業を継続すべきでない」「現在のイン
   ベントリーを改訂することで十分」とする意見等があったが、最終的には、
   今後の活動として、引き続きインベントリーの改訂を行っていくこととな
   った。



9 アジア太平洋経済協力(APEC)
  APECにおいても、インターネットに関する取組みが進められており、1
 997年(平成9年)9月23日には、ニュージーランドのウェリントンにお
 いて、電気通信ワーキング・グループが、「アジア太平洋情報スーパーハイウ
 ェイによる情報社会の創造」と題するセミナーを開催し、各国の取組みの他、
 政府の役割やフィルタリング及びレイティング技術等に関する紹介が行われた。
 今後、引き続き、コンテント・情報問題について議論が行われる予定である。

 (注3)グッドサマリタンの法理(Good Samaritan doctorine)…他人を救
    済する責任を軽減する不法行為法の一原則。ここでは、インターネット
    等における違法・有害情報の流通を阻止しようと努力するプロバイダー
    ほど、より重い責任を負わされることのないよう、その責任を軽減する
    もの。

 (注4)違憲とされたのは、CDA法のうち、「下品な」(indecent)及び
    「明らかに不快な」(patently offensive)情報の発信に対する規制
    の部分のみであり、「わいせつな」(obscene)及び「卑猥な」(lewd)
    情報の発信に対しては、依然として規制が残っており、また、プロバイ
    ダーの責任に関する規定(前述)はすべて残っていることに注意。

 (注5)しかしながら、同条の規定には罰則がないため、その実効性は疑問視
    されており、現実にも、フィルタリング・ソフトの導入はそれほど進ん
    でいないようである。




第3章 情報流通ルールの具体的な在り方



1 自己責任の原則

 (1)発信者の責任と自覚
    インターネットは、これまで情報の受け手に甘んじてきた個人が、いつ
   でも自由に自ら作成した情報を発信し、又は第三者が作成した情報を再発
   信できるようになったという点で極めて画期的なメディアである。いった
   ん接続すれば、政府機関やマス・メディアに匹敵するともいわれるように、
   個人の情報発信能力は飛躍的に増大した。
    他方、情報発信者である個人は、通常、記者や編集者のような情報のプ
   ロとしての訓練を受けてなく、発信するコンテントの吟味が十分でないこ
   とが多い。したがって、違法又は有害であると指摘されるような情報を本
   人があまり意識しないままに発信したり、逆に、不用意に自らの個人情報
   を公開し、思わぬ被害に遭うといった事態が起こっている。
    インターネットにおける情報発信は手軽ではあるが、特に公然性を有す
   る通信において、その影響力は想像以上であることを認識し、これに伴う
   責任とリスクを十分に自覚することが必要である。
    あるプロバイダーによれば、明らかに問題であると思われる情報を発見
   した場合、発信者に連絡してそのことを指摘すると、ほとんどの者が自主
   的に削除や訂正等の措置をとっているということであり、発信者の自覚が
   高まれば、インターネット上の情報流通に関する問題のかなりの部分が解
   決するものと思われる。
    したがって、インターネットに関わる事業者や団体等において、あらゆ
   る機会を利用して発信者を啓発していくような情報社会教育を推進してい
   く必要がある(注6)。

 (2)受信者の責任と自覚
    インターネットは、情報発信の面においてのみならず、情報へのアクセ
   スの面でも大きな可能性を有している。個人でもいながらにして世界中か
   ら発信される多種多様な情報にアクセスすることができ、個人の情報収集
   能力は著しく向上している。現に、本研究会においても、事例の収集や諸
   外国の動向についての情報の多くをインターネットを通じて入手しており、
   その価値をあらためて評価したい。
    他方、インターネット上を流通する情報の中には、発信者側の問題の裏
   返しとして、信頼性の低いものや犯罪性のあるものも見受けられ、いわば
   玉石混淆の状態にある。したがって、受信者としても、入手できる情報を
   鵜呑みにせず、その価値を自ら吟味するという態度が必要となる。例えば、
   最近問題となっているネズミ講まがいの情報(注7)やデマ情報(注8)
   については、常識や客観的事実とも照らし合わせた上で、冷静な対応をと
   っていくことが必要であろうし、対応策を望む声の多い詐欺的情報や誇大
   広告・虚偽広告(注9)についても、受信者の自己防衛が最も効果的であ
   ると思われる(注10)。
    また、青少年保護の観点から有害であるとされる情報については、受信
   者側でフィルタリング・ソフトウェアを活用することが提唱されているが、
   結局、これを機能させるもしないも受信者側の意識次第である。例えば、
   ソフト自体がインストールされていても、保護者においてその仕組みを理
   解して適切に設定しなければ、ほとんど無意味であるということもあり得
   る。
    さらに、インターネットにおいては、チャンネルを回してテレビの番組
   を見ること等に比べると、目指す情報を自ら探し出してアクセスするとい
   う要素が強い。したがって、普通に利用している場合は、その意に反して
   不快な情報に遭遇するということは比較的少ないと思われる。しかしなが
   ら、明確な目的もなくネットサーフィンをしていれば、それだけ、違法又
   は有害な情報に接する可能性も高くなることを認識すべきであろう。



2 情報発信への対応

 (1)現行法の適用
    情報社会教育によって発信者の自覚を高めることが最も重要であるとは
   いっても、それには限界があることもまた事実である。確信犯的に情報を
   流す場合には無力であるし、そこまでいかなくても、一部の発信者の中に
   は、インターネット上の仮想社会には現実社会のルールが及ばないとの考
   えや、匿名性があるから誰がやったか分からないだろうという安易な気持
   ちから、違法又は有害な情報を発信する者も見受けられる。
    しかし、「オフラインで違法なものは、オンラインでも違法」であるこ
   とは国際的にも共通の認識となっている(注11)。刑罰法規に違反する
   行為に対して、現行の法律が的確に適用されれば、それが、将来の違法行
   為の抑制にもつながると考えられる(注12)。現に、ネット上での行為
   についても、わいせつ図画公然陳列罪、侮辱罪等で検挙・処罰された事例
   がある(注13)。これに対し、違法にまで至らない有害な情報について
   は、現行法で対応することはもとより困難である。

 (2)新たな対応
    こうした既存の法律がインターネットについても適用があることを前提
   として、さらにインターネットに特別の法的措置を講ずるべきかを検討す
   る必要がある。
    インターネット上における違法又は有害な情報の発信を特別の法律に基
   づいて規制することは、表現の自由に対する大きな制約となることから、
   それによって保護される利益(被害者の名誉・プライバシー、青少年保護、
   社会秩序の維持等)と失われる利益(表現の自由等)のバランスに十分配
   慮して、社会的コンセンサスを得ながら進めることが必要である。
    こうした観点から見た場合、現行法の罰則では不十分であるとの指摘や、
   インターネット上で有害情報が広く流布されることの悪影響の大きさを考
   慮すると、公然性を有する通信に限り、新規立法により規制すべきである
   との意見もあるが(注14)、他方、表現の自由を過度に制約するもので
   あり認められないとの意見もある(注15)。
    さらに、インターネットにおいては、情報が国境を越えて流通すること
   から、新たな発信規制をするには国際的なコンセンサス作りが必要である
   が、現在のところ、OECD等の国際的な場での議論や、クリントン米大
   統領の声明等を踏まえると、国際的なコンセンサスが十分形成されている
   とは言えない。
    なお、児童ポルノについては、欧米諸国では児童虐待の一類型であり、
   違法とされるのに対し、我が国では、一般的にそのような認識に乏しいが、
   インターネットによる国境を越えた情報流通が活発化するにつれて、こう
   した考えが国際的に通用しなくなることも想定される(注16)。今後、
   子どもの人権保護の観点から、さらに検討する必要があると思われる。

    いずれにせよ、情報発信への対応については、インターネットの進展を
   見守りつつ、上記のとおり表現の自由と被害者の名誉・プライバシー、青
   少年保護、社会秩序の維持等との調和を図りながら、国際的な協調のため
   の努力を惜しまずに、今後ともその在り方を検討していく必要がある。



3 プロバイダーの責任

 (1)プロバイダーの責任範囲の明確化
    違法又は有害な情報の発信については、第一次的には発信者に責任があ
   ることはいうまでもないが、発信者の匿名性の問題や必ずしも責任ある対
   応を期待できないということもあって、その責任追及が常に有効であると
   は限らない。他方、プロバイダーは、情報発信者に対して発信のための手
   段を提供しており、いったん違法又は有害な情報が発信されたことを知っ
   たときには、発信をコントロールして当該情報の伝播を止め、被害の拡大
   を防止することが可能な立場にある。そこで、プロバイダーが違法又は有
   害な情報の発信を知ったときには、当該情報発信者に対する注意喚起、利
   用停止等の措置を講じるべき責任を負わせることによって、被害者救済を
   図り、さらに発信者や他の利用者の自覚を促すことにより、将来の違法又
   は有害な情報の流通の防止に寄与すべきであるとの考えがある。
    しかし、プロバイダーは、第1種電気通信事業者又は第2種電気通信事
   業者として通信の秘密等の電気通信事業法上の規律を受ける立場にあり、
   そもそも利用者のコンテントにどの程度まで関われるのかが明確ではない。
   また、利用者が発信したコンテントについて、民事・刑事法上、いかなる
   責任を負うのかについても確立した考えはないのが現状である。
    プロバイダーの現実の対応を見てみると、原則として利用者のコンテン
   トには関わらないとの立場をとりつつ、法的責任を問われる可能性がある
   ことからリスクヘッジとして、あるいは社会的な非難を受けることを避け
   る目的で、利用者との契約約款等において、違法又は有害な情報の発信に
   対し、発信者に対する注意喚起(プロバイダーは、「警告」と表現するこ
   とが多い)、情報の削除や利用の停止等ができる旨の規定を設けた上、こ
   れに従った対応をしているところが多い。また、利用者の立場からも、公
   然性を有する通信において違法又は有害な情報が流通している場合、被害
   者救済(被害の拡大防止)等の観点からプロバイダーが何らかの措置をと
   るべきであるという要望が多い(注17)。

    こうした状況を踏まえて、プロバイダーについて、利用者のコンテント
   に対していかなる場合にいかなる責任を負うのかをできるだけ具体的に検
   討する必要がある。その際、以下の点に留意すべきであると思われる。

   ○ プロバイダーの通信内容に対するコントロールの程度は様々であり、
    それにより責任の程度も異なり得ること。

   ○ プロバイダーに対する負担が大きくなり過ぎると、プロバイダーが過
    剰な抑制を行うことにより、利用者の表現の自由を萎縮させるおそれも
    あることから、妥当でないこと。(常時モニタリングを行って、通信内
    容をチェックするまでの義務を負わせることは当然不適当である。)

   ○ プロバイダーの責任範囲を一律に定めることは、プロバイダーの経営
    の自由、ひいては利用者のサービス選択の幅を狭めることとなり、イン
    ターネットのダイナミズムを害することになること。

   ○ メディアの特性を考慮した上で、他のメディアにおける情報発信に対
    する規制との調和を図ること。

   ○ 違法又は有害な情報の流通に対して自主的に対応したプロバイダーが、
    こうした情報を放置したプロバイダーに比べて、かえって重い責任を負
    うことのないようにすること。

   これらを踏まえて、プロバイダーの責任を検討する前に、少なくともプロ
  バイダーには、主要当事者として、情報流通のルール形成に貢献する責務が
  あるということは、明確にしておく必要がある。情報の自由な流通が望まし
  いとは言え、無秩序ではインターネット自体の進展を妨げることになりかね
  ないからである。

   次に、プロバイダーの責任を考えるに当たっては、プロバイダーがコンテ
  ントに対するコントロールをどの程度及ぼしているかが重要な要素になって
  くると思われる。議論の進んでいるアメリカにおいては、名誉毀損の責任と
  の関係で、プロバイダーは、配布者("distributor")としてコンテントが
  違法であることを知っていたか知るべき理由があったことが立証されたとき
  に限って責任を負う(前述:Compuserve判決)、出版者("publisher")と
  して高度の責任基準が適用される(前述:Prodigy判決)、キャリア
  ("carrier")として第三者のコンテントに責任を負わない(前述:AOL
  判決)、等の判決が出されているが、今後の動向については揺れている。
   プロバイダーのサービス提供態様(インターネット及びパソコン通信)と
  公然性を有する通信におけるコンテントに対する責任との関係については、
  例えば、以下のような考え方も可能であると思われる。

  [1]プロバイダーが自らのホームページ等において自らの情報発信を行っ
    ているケース
     情報発信者としての責任を負うのではないか(注18)。

  [2]プロバイダーがサービスの一環として、各種情報サービスを提供して
    いるケース
    (例:インターネットにおけるネットニュースの配信やパソコン通信サ
     ービスにおいて提供される天気情報、占いサービス等)
     プロバイダーのコンテントへの関わりが強く、情報発信者に準じた責
    任を負い、違法な情報が発信されないよう注意すべき義務があるのでは
    ないか。

  [3]プロバイダーがコンテントの配置や運営方法等について管理している
    ケース
    (例:パソコン通信サービスにおいて、管理者(シスオペ等)が管理す
    る電子会議室等(フォーラム等の他、チャット等も含まれる。))
     プロバイダーがコンテントをコントロールするとみると情報発信者に
    準じた責任を負うが、コントロールしないとみると"distributor"と
    してコンテントが違法であることを知っていたか知るべきであったとき
    に責任があるのではないか。

  [4]プロバイダーがホームページサービスを提供(サーバー貸し)し、契
    約約款等で違法なコンテントに対する注意喚起や削除等の権利を留保し
    ているケース
     コンテントが違法視されるものであることを知った場合は、約款の規
    定に従い何らかの必要な措置をとらない限り責任を負うのではないか。
    ただし、利用者のホームページを常時監視するなどして違法な情報発信
    を防止すべき義務まではないと考えられる。

  [5]プロバイダーがホームページサービスを提供し、契約約款等に上記の
    ような条項を設けず、コンテントについて関与しない立場をとっている
    ケース
     不法行為責任や刑事責任との関係では、違法であることを知りつつ放
    置することは許されず、必要な措置をとらない限り責任を負うべきでは
    ないか。

  [6]単にアクセス手段を提供しているにすぎないケース
     コンテントに対するコントロールを及ぼし得ず、コンテントに責任は
    ないのではないか。

   もっとも、上記のような考えは確立されたものではなく、また、法的責任
  は、個々具体的なケースごとに判断されるべきものである。今後、具体的な
  ルール化の一環として、プロバイダーの責任の在り方を何らかの形で明確に
  していく必要がある。それには、立法によるアプローチと裁判所による判断
  の集積にゆだねるアプローチとがある。
   仮に立法によるとした場合、考えられる内容としては、まず、違法な情報
  に対して必要な措置を取ることを義務づける等の作為義務規定又は努力義務
  規定を設けることが考えられるが(例えばドイツのテレサービス法のような
  もの)、プロバイダーにとっては過大な負担となる(特に、利用者のコンテ
  ントが違法であるか否かを判断すること)との意見や、プロバイダーの過剰
  な反応を招き、インターネット上における表現の自由を不当に制約するおそ
  れがあるとの指摘がなされている。
   次に、プロバイダーが自らの判断で必要な措置をとることができる旨の規
  定又は必要な措置をとった場合の免責規定を設けることも考えられるが(例
  えばアメリカのグッドサマリタン条項(前述)のようなもの)、プロバイダ
  ーによる言論選別につながるという懸念や、そのような免責規定が我が国の
  法制度になじむかといった問題がある。この場合には、少なくとも、各プロ
  バイダーが過度にコントロールをすることのないよう、いかなる場合にいか
  なる措置をとるかをあらかじめ明示する義務を負わせるなどの方策を講じて
  おくことが必要と考えられる。
   立法によらない場合には、違法又は有害な情報にどう対処するかは、基本
  的には、各プロバイダーの裁量にゆだねられ、利用者のコンテントには一切
  関わらないというプロバイダーが出てくることも予想される。現行の電気通
  信事業法を前提とする限り、このような方法もあり得るところであり、むし
  ろ、望ましい対応であるとする見解もある。しかしながら、自己の管理下に
  違法な情報があることを知りつつ放置していた場合には、民事又は刑事の責
  任を負う可能性があることは否定できない。また、有害な情報について、何
  もしないことに対する社会的非難も当然予想される。さらに、前述のとおり、
  プロバイダーは情報流通ルールの形成に貢献する責務があることをここで再
  度強調しておきたい。
   プロバイダーの事業者団体である(社)テレコムサービス協会では、現在、
  こうした問題に対処するための自主的ガイドラインを策定中であり、利用者
  から申出等により違法又は有害な情報が流通していることを知ったプロバイ
  ダーは、あらかじめ定めた約款の規定に従い、発信者に対する注意喚起、利
  用の一時停止、削除等の必要な措置をとり得るとする方向で検討中である。
  多くのプロバイダーがこのガイドラインに従った対応をとるならば、新たな
  法律の規定を設けるまでもなく、同様の効果が期待できることになろう。
   利用者のコンテントにつき、プロバイダーがいかなる場合にいかなる責任
  を負うかは、我が国のみならず、諸外国でも法律を定めたドイツ等を除き、
  未だ確立した考えはない状況である(注19)。インターネットを高度情報
  通信社会における個人の基本的人権というべき「情報発信権」、「情報アク
  セス権」を実現する核となるメディアと位置付けた場合、できるだけ自由な
  情報流通を確保することが優先するというべきである。このことからすると、
  法律によりプロバイダーの責任を規定することについては、国内及び海外の
  動向を見据えつつ、なお慎重に検討すべきであり、当面は、現行法制下にお
  いて、プロバイダーの自主的対応に期待していくことが適当と思われる
  (注20)。

 (2)電気通信事業法上の問題
    プロバイダーの自主的対応に期待するにしても、電気通信事業法(以下
  「事業法」という。)上、検閲の禁止(第3条)、通信の秘密保護(第4条
  第1項)、利用の公平(第7条)等の規定との関係を整理しておく必要があ
  る。

  [1]公然性を有する通信の内容を見ることと事業法第3条及び第4条第1
    項まず、事業法第3条(旧公衆電気通信法第4条)に言う「検閲」の主
    体については、従来、国その他の公の機関であると解されてきた。これ
    は、「検閲」の一般的概念に合致するものであり、それなりに理由があ
    ると思われる。
     他方、本条にいう「検閲」の主体には、私人を含めて解することがで
    きるという見解も有力となっている(もっとも、ここに私人といった場
    合、単なる私人による「検閲」というのは考えにくく、不適当と認める
    通信の発信を禁止する能力を有する者、具体的には当該通信を取り扱う
    プロバイダー又はこれに影響を与え得る者に限られると思われる。)。
     また、「検閲」の概念についても、「発表前(事前)の禁止」を目的
    としたものに限定されるという見解(最高裁昭和59年12月12日大
    法廷判決参照)と、「発表後(事後)の積極的な知得」を目的としたも
    のも含むべきとする見解とがある。
     これらのうち、いずれの見解によるにせよ、事業法における「検閲」
    で禁止される行為とは、プロバイダーの取扱中に係る通信の内容又はそ
    れを通じて表現される思想の内容を調査し、場合によっては不適当と認
    めるものの発信を禁止することであると考えられる。このうち、通信内
    容を調査するという点をとらえると、「検閲」は、通信の秘密侵害とほ
    とんど同義と考えられる。したがって、公然性を有する通信においては、
    通信内容に秘密性はなく、その内容を見ても事業法第4条第1項の通信
    の秘密の侵害にならないという考えを前提とすると、こうした公然性を
    有する通信の内容を単に調べることをもって「検閲」というには当たら
    ないということになる。つまりコンテントを見ることは、公然性を有す
    る通信においては、コンテントについて秘密性がない以上、事業法第3
    条及び第4条第1項違反は問題とならない。これは約款の規定の有無に
    よっても結論は変わらないと解される。

  [2]公然性を有する通信の発信者への注意喚起と事業法第3条及び第4条
    第1項
     次に、発信者への注意喚起についてであるが、発信者の任意の措置を
    促すものにとどまる限り、事業法第3条及び第4条第1項違反とはなら
    ず、約款の規定の有無にかかわらず許されると解される。
     注意喚起をするには発信者を特定することが必要であるけれども、当
    該通信内容から連絡先(e−mailアドレス等)が明らであればもち
    ろん、当該通信に含まれる情報(URL等)とプロバイダーが把握して
    いる契約者情報とを照らし合わせることにより発信者の連絡先を知得し
    たとしても、プライバシー上の配慮は必要であるが、「通信の秘密」侵
    害とはいえない。
     これに対し、通信ログを調べるなどして発信者を探知することは、
    「通信の秘密」との関係で問題が生じ得るが、契約約款等で違法又は有
    害な情報発信に対する利用制限が規定されている場合は、利用者もプロ
    バイダーとの関係では発信元を探知されることがあり得ることを承諾し
    ている(その限度で「通信の秘密」を放棄している。)との考えがある。
    また、契約約款にそのような規定がない場合であっても、通信内容が公
    開され秘密性がないような公然性を有する通信における発信者情報は、
    もはや通信の秘密として保護するような実質的理由は弱いと解されるこ
    とから、それと被害者救済との利益衡量により、プロバイダーが違法又
    は有害な情報の発信者を探知することも許される余地があるとの考えも
    ある。こうして、プロバイダーが適法に発信者の情報を知得した場合は、
    これを漏示しないという意味での守秘義務が問題となるところ、この場
    合は発信者本人に通知するだけであるから「通信の秘密」侵害とはなら
    ないと考えられる。
     また、「検閲」との関係では、任意の措置を促すに過ぎない場合は、
    発信の禁止に当たらず、許されると解される。

  [3]公然性を有する通信における情報の削除、利用停止及び契約解除と事
    業法第3条、第4条第1項、第7条及び第34条
     削除・利用停止・契約解除については、まず「検閲」禁止との関係が
    問題となる。この点、事業法第3条にいう「検閲」の主体は公権力に限
    られるとの見解に立った場合は、問題はないが、これにプロバイダーも
    含まれるとの見解に立つと、プロバイダーがこうした措置をとることは、
    原則としてできないという結論になりそうである。しかし、プロバイダ
    ーがこうした措置を全くとり得ないという結論が妥当とは思われない。
    そこで、この点をクリアするため、次のような考えが主張されている。
     その第一は、「検閲」禁止は1対1の通信を前提とするものであり、
    公然性を有する通信においてはその適用はないという考えである。しか
    し、これに対しては、通信内容を調査することが禁止されないという意
    味では妥当するとしても、内容に秘密性がないからといって、不適当と
    判断した通信の発信を禁止してよいということにはならないのではない
    かとの疑問がある。
     第二は、プロバイダーも、自己の表現の自由を有しており、公然性を
    有する通信が表現手段として重要な役割を果たしていることにかんがみ
    ると、少なくとも他者による違法又は有害な表現については、その発信
    をコントロールする権利を留保することができると解するのが相当であ
    り、こうした権利を留保した場合には、これが「検閲」の禁止に優越す
    るという考えである。
     いずれにしても、削除・利用停止・契約解除といった措置は、基本的
    には契約約款等に定めておかなければとれないが、内容が明らかに違法
    であり放置しておけば自ら法的責任を問われる可能性がある場合や、権
    利が侵害されている者の救済のため緊急の必要性がある場合には、許さ
    れる余地があると思われる。
     次に、事業法第7条の利用の公平との関係が問題となるが、公然性を
    有する通信においては、プロバイダーは上記のような権利を留保し得る
    と解されることから、違法又は有害な情報の発信を禁止し、これに対す
    る措置をとったとしても、合理的理由に基づく取扱いの区別として許さ
    れると考えられる。
     なお、第1種電気通信事業者(以下「第1種事業者」という。)につ
    いては、事業法第34条により役務提供義務が課されており(同法第1
    01条に罰則がある。)、通信内容を理由に利用の停止や契約の解除等
    の措置をとることができるかについては、疑義もある。しかし、第2種
    電気通信事業者と同様の役務を提供しているような場合に、第1種事業
    者であるというだけの理由で、いかなる情報の発信をも許容しなければ
    ならないという意味での提供義務が生ずると解するのは不合理である。
    提供義務の趣旨が、電気通信設備を保有している第1種事業者が役務の
    提供を拒否した場合には、当該利用者への影響が極めて大きくなること
    からきているとすると、第1種事業者の提供する役務が基本的な役務で
    ない場合等には、提供義務も緩和されると解してよいと考えられる。し
    たがって、違法又は有害な情報の発信を理由に役務提供を制限すること
    も、同法第34条の「正当な理由」に該当し得ると考えられる。

 (3)1対1の通信の取扱い
    インターネット上の情報流通の問題には、公然性を有する通信における
   ものだけでなく、電子メール等の1対1型の通信におけるものも含まれて
   いる(注21)。プロバイダーのもとには、こうした電子メールに関する
   苦情や相談も寄せられており、苦情申立者からメールの転送を受けるなど
   してその内容を知り得る場合がある。この場合には、通信の一方当事者の
   承諾がある以上、通信の秘密侵害という問題は生じないと解される。もち
   ろん、受信したメールをその内容にかかわらず第三者に公開することは、
   当該メールの受信者の発信者に対する関係でプライバシー侵害が問題とな
   り得るが、少なくとも、発信者のメールの内容により権利の侵害を受けた
   受信者が、その救済を求めてプロバイダーに知らせるような場合は、発信
   者としてもそうした開示すら許されないという意味でのプライバシーを期
   待できないということができる。
    また、その上で、プロバイダーが当該情報の発信者に対して注意喚起を
   行うことも、公然性を有する通信の場合と同様、許される場合があると考
   えられる(ただし、発信者が自己の契約者以外の場合は、発信者を探知す
   ることには限界がある)。問題は、それにもかかわらず発信者が違法情報
   の発信を止めない場合等に、利用停止や契約解除等の措置を行うことが許
   されるかであるが、原則としては、許されないという結論になると思われ
   る。というのは、公然性を有する通信の場合とは異なり、1対1の通信に
   おいては、特定者間での通信である以上、プロバイダーが関わるべき理由
   は基本的にはないからである。ただし、1対1の通信の形をとっていても、
   故意に大量のメールを送りつけるような者の発信や受信を制限することは、
   事業の円滑な運営を確保するために許される余地があろうし、脅迫に当た
   るようなメールや他人になりすましてその名誉を侵害するようなメールを
   執拗に送信する者が特定できた場合には、正当防衛又は緊急避難等の観点
   から、注意喚起を発したり、又は利用を一時停止する等の措置をとり得る
   場合もあると考えられる。

 (4)大学・企業の管理者の責任
    大学や企業のネットワークの管理者は電気通信事業者ではないが、技術
   的、機能的には、プロバイダーと同様の役割を果たしている。ただし、こ
   れらのネットワークは、独自の目的に従って設置・運営されており、事業
   として他人の通信の媒介ないしは他人の通信の用に供しているプロバイダ
   ーとは別の考慮が必要となる。
    例えば、大学のネットワークの設置目的は、教育や研究等にあると解さ
   れるから、学生や教職員の利用もそうした目的に応じて制限され得る(た
   だし、研究活動には学問の自由(憲法23条)が認められていることに留
   意すべきである)。また、企業のネットワークは、その企業活動のために
   使用されることを当然の前提としているから、通常、従業員はその目的に
   反した使用は許されないと思われる。
    いずれの場合も、ネットワークの管理者としては、学生や従業員の利用
   に対し、利用方法や目的等をあらかじめ明確にし、適正に管理すべきであ
   ると考えられる。また、違法又は有害な情報の流通への対処やネットワー
   ク利用者(学生や雇用者等)に対する啓発活動等、プロバイダーの行動規
   範に準じた対応が望まれる。



4 発信者情報の開示

 (1)公然性を有する通信における発信者情報の開示
    公然性を有する通信について、通信内容は公開されたものと考えるにし
   ても、発信者の住所、氏名、発信場所等については、なお「通信の秘密」
   に含まれると解する見解が一般的である。したがって、プロバイダーは、
   従来、令状による強制捜査の場合を除いて、外部から発信者の照会があっ
   ても、回答しないものとして扱ってきた。しかし、平成8年報告書でも指
   摘したように、確かに匿名による発信を許容することは、個人の情報発信
   の自由を確保することに役立つが、これが濫用されると、無責任な情報発
   信が助長されるおそれもある。特に公然性を有する通信の場合、情報自体
   は公開されていることやその影響力の大きさにかんがみると、匿名による
   表現の自由は制約されてもやむを得ないという意見も表明されている(注
   22)。
    そこで、発信者の匿名性と「通信の秘密」との関係を整理してみると、
   従来、「通信の秘密」に通信内容のみならず、通信当事者の住所、氏名、
   発信場所等の通信の構成要素や通信回数等、通信の存在の事実の有無を含
   むと解されてきたのは、これらの事項を知られることによって、特定の通
   信の意味内容が推知されることが大きな理由とされてきた。とするならば、
   公然性を有する通信のように通信内容自体が公開されて秘密性がないよう
   な場合には、発信者の氏名・住所等を通信の秘密として保護する実質的な
   理由は弱いと解される。もっとも、こうした通信の構成要素や通信の存在
   の事実の有無といった事項は、個人のプライバシー(プライバシーの理念
   のもとでは、どの情報を秘匿するかの判断も個人の意思によるとされる。)
   の面からは依然として保護に値するというべきであり、「通信の秘密」に
   当たらないと言い切ることはできないとの見解もある。しかし、仮に「通
   信の秘密」に当たるとしても、発信者のプライバシーが他の利益に常に優
   越するとは考えられず、具体的な利益衡量による制限は可能と思われる。
   したがって、例えば、インターネットのホームページ上等で名誉毀損や詐
   欺等の被害を受けた者を救済するため、発信者への注意喚起を目的として
   の発信者の特定が許される場合があることは前述のとおりであるが、それ
   以外の目的であっても、一定の要件の下で適正な手続に従って発信者を特
   定する情報を開示することを可能とする手段を設けることを検討すべきで
   ある。

 (2)1対1の通信における発信者情報の開示
    1対1の通信の場合は、公然性を有する通信のように、内容に秘密性が
   ないという事情はない。しかし、少なくとも被害を受けた者が通信当事者
   である場合には、これから開示請求があったような場合は、公然性を有す
   る通信と利益状況は似通っている。すなわち、通信内容は受信者には既に
   分かっており、これを推知させ得る事項としての通信当事者の住所、氏名、
   発信場所等の情報を秘密として保護する実質的な理由は弱いと考えること
   ができる。したがって、一定の場合には同様に開示が認められる余地はあ
   る。ただ、例えば電話の場合は、従来、たとえ迷惑電話で被害を受けた被
   害者からの要請があったとしても、一切開示には応じられないとして運用
   されてきた。そして例外的に、脅迫の場合に限り、着信者の同意を条件に
   電話の逆探知を実施してきたことからして、通信の秘密と着信者(被害者)
   救済の間の利益のバランスが重視されてきたものと考えられる。1対1の
   通信における発信者情報の開示が認められるべきであるが、その要件の検
   討に当たっては、このような経緯も含め、保護すべき利益のバランスに十
   分考慮する必要がある。

 (3)開示が認められる要件
    発信者情報の開示が認められるべき要件を検討するに当たっては、以下
   の点に留意する必要があると思われる。

  ○ プライバシーが不当に侵害されることのないよう、開示が安易になされ、
   あるいは濫用的に運用されることのないようにすること。原則として、開
   示の前に発信者に連絡をとって、開示についての同意を得るよう努めるこ
   とが必要であろう。

  ○ 必要最小限の情報の開示に止まるべきこと。

  ○ 当該通信の発信者開示のために、別の通信又は他人の通信の秘密を侵害
   することのないようにすること。

  ○ プロバイダーにとって違法性の判断が困難な場合において、通信の秘密
   を保護する利益と被害者救済の利益のバランスを十分に担保し得るシステ
   ム(制度:例えば第三者機関の活用)の構築を検討すること。



5 受信者の選択を可能とする技術的手段

 (1)レイティング及びフィルタリング技術
    EUやアメリカの報告書等においても、受信者側で有害な情報をブロッ
   クするレイティング及びフィルタリング・ソフトの活用が対応策の一つの
   柱とされている。
    我が国においても、その導入の必要性は認識されており、既に日本語に
   対応したソフトが数種類市販されているが、未だあまり普及していない状
   況にある(注23)。その理由としては、導入すべき親の意識が低い、使
   い勝手が必ずしもよくない、料金的に割高感があるといったことが指摘さ
   れている。
    今後は、いかにして普及させていくかが課題であり、利用を推奨してい
   くなどの方策が必要となってくると思われる。
    また、レイティングについては、国際的にも連携をとっていく必要があ
   ることから、我が国の関係機関も積極的に検討に加わっていく必要がある。
   レイティングについては、現在人手に頼って行っているのが実状であり、
   日々更新される膨大な数のホームページをチェックしていくのは次第に困
   難になりつつある。そこで、こうした作業を省力化することが今後の課題
   であり、郵政省では、モデル地域の横浜市の協力を得て、キーワードマッ
   チングにより違法又は有害情報を自動的に抽出する技術や、様々な組織及
   びコミュニティに分散して存在する格付け情報を連携させ有効に活用する
   技術の開発に取り組んでいる。
    なお、レイティング及びフィルタリング・ソフトの導入に対しては、利
   用推奨自体が表現の自由に対する萎縮効果を持つとして批判する見解もあ
   ることに留意すべきであり(注24)、あくまで受信者の自由意思に基づ
   いて進めていくことが大切である。

 (2)受信拒否機能
    電話サービスにおいては、既に迷惑電話対策として迷惑電話お断りサー
   ビスが導入されているが、同様に迷惑通信を受信者側の選択によりブロッ
   クする技術の導入が迷惑通信対策の一つとして考えられる。プロバイダー
   の中にはこのようなブロック技術を導入して、特定のメールアドレスある
   いはサーバーからの受信を拒否する手段を受信者に提供しているところも
   ある。こうした機能を利用者に周知すること、及びプロバイダーによるこ
   れらの機能の導入が促進されるための方策を検討することなども、今後必
   要になると思われる。



6 事後的措置

 (1)プロバイダーによる苦情処理体制の整備
    違法又は有害な情報を発見したり、被害を受けたりした場合に苦情や相
   談を受け付ける窓口がはっきりしないという指摘がなされることがあり、
   こうした苦情・相談窓口の明確化を図る必要がある(注25)。諸外国に
   おいても、ホットラインの設置が提言されており、我が国においても、電
   子メールによる苦情を受け付ける苦情処理ホットラインの創設が課題であ
   ろう。

 (2)事例に応じた相談窓口の明確化
    苦情・相談は、必ずプロバイダーに申し出なければならないというもの
   ではなく、むしろ、事案によっては、その他の専門機関の方が適切な対応
   が期待できる場合がある。(例えば、ドメインネームの問題については、
   (社)日本ネットワークインフォメーションセンター(JPNIC)等に
   相談するケースが考えられる。)これらの情報をもっと一般に周知するよ
   う努めていく必要がある。また、これらの関係機関がお互いのホームペー
   ジをリンクし合うのも一つの方法である。
    最近では、個人がボランティア的に相談に応じる例も見受けられるよう
   になり、また、法律の専門家等が相談を受ける例も増えてきている。将来
   的には、紛争解決まで行えるような機関の創設が考えられる。


  (注6)本研究会が実施した利用者アンケートにおいても、今後の対応策と
     して、利用者の自覚を促す啓発活動の推進が必要であるとする意見が、
     57.6%と最も多かった。

  (注7)警察庁生活安全局生活環境課も、ホームページでネズミ講への注意
     を呼びかけている他、平成9年(1997年)11月には、郵政省や
     プロバイダー団体に対して、広報・啓発活動の実施及び警告等の対応
     措置の実施を要請した。

  (注8)「○○社が倒産する」「○○者の製品は粗悪品」「○○という題名
     のメールは新種のウィルス」等といった根拠のない情報の流通が増加
     しつつある。

  (注9)本研究会が実施した利用者アンケートにおいても、対応策が必要と
     思われる情報として、詐欺的情報を挙げる意見が66.1%、誇大広
     告・虚偽広告を挙げる意見が47.5%に上っている。

  (注10)こうした電子商取引における不正行為に対処し、電子商取引の信頼
     性向上を図るため、例えば、郵政省では、[1]真正なホームページ
     であることを第三者が保証するための情報をマークに持たせる、
     [2]不正コピー、改ざんができないようにホームページにマーク
     (「インターネット・マーク」(推奨))を刷り込み、[3]マーク
     をクリックして不正コピーかどうかを確認する、という技術の実用化
     へ向けた開発に取組む予定である。

  (注11)1996年(平成8年)10月16日の欧州委員会の「インターネ
     ット上の違法・有害なコンテントに関する報告書」(前述)において
     も、「オフラインで違法なものは、オンラインでも違法(What is
     illegal offline remains illegal online)」と述べられている。

  (注12)1997年(平成9年)7月のクリントン米大統領の声明(前述)
     においても、オンラインを用いたわいせつ、児童ポルノ等については、
     現行法による取り締まりを強化していく旨が述べられている。

  (注13)インターネットのホームページ上の掲示板に、女性の実名と電話番
     号、及び男性を誘うようなみだらな文章を書き込んだ者に対して、秋
     田簡裁は平成9年(1997年)11月19日、侮辱罪で科料の略式
     命令を下した。また、インターネットの掲示板に知人の女性の実名と
     電話番号とともに「失楽園して」などとこの女性が不倫を望んでいる
     かのような内容の文章を掲載した者に対して、東京簡裁は平成9年
     (1997年)12月17日、侮辱罪の略式命令を下した。さらに、
     生活保護を受けている人を差別する内容の電子メールを福岡市職員に
     なりすました第三者から受け取り、当該福岡市職員本人からのメール
     と思い込んで、パソコン通信の電子掲示板上に掲載した者について、
     福岡県警中央署は平成9年(1997年)12月8日、名誉毀損の疑
     いで書類送検した。
      男女の性器・性交場面を露骨に撮影したわいせつ画像データをプロ
     バイダーのサーバーコンピュータ等に蔵置させ、不特定多数のインタ
     ーネット利用者に閲覧させる行為については、わいせつ図画公然陳列
     罪として公判請求され、同罪に該当するとの判決がなされている(平
     成8年(1996年)4月22日東京地裁判決、確定済み。同年11
     月15日東京地裁判決、確定済み。同年12月8日静岡地裁判決、確
     定済み。平成9年(1997年)9月24日京都地裁判決、被告人控
     訴中。)。
      また、男女の性器や性交場面を露骨に撮影したわいせつ画像にマス
     ク付け外しソフトを用いてサーバーコンピュータに送信記録させ、不
     特定多数のインターネット利用者に閲覧させる行為についても、わい
     せつ図画公然陳列罪として公判請求され、同罪に該当するとの判決が
     なされている(平成9年(1997年)2月17日大阪地裁判決、確
     定済み。同年12月15日岡山地裁判決。)。

  (注14)例えば、福岡県では、福岡県青少年健全育成条例が改正され(平成
     9年(1997年)7月1日施行)、何人も、インターネットやパソ
     コン通信上の有害情報を青少年に見せ、聞かせ、又は読ませないよう
     に努めなければならないとするとともに(第11条第2項)、プロバ
     イダー等に対し、自主規制の規約を制定させる努力義務を課した(第
     15条第4号)。また、平成9年(1997年)12月に出された警
     察庁生活安全局長の私的勉強会である「時代の変化に対応した風俗行
     政の在り方に関する研究会」提言書においては、コンピュータ・ネッ
     トワークを利用して有料で性的好奇心をそそる衣服を脱いだ人の姿態
     の映像を見せる営業が増加し、18歳未満の年少者が容易に見ること
     が可能になっている現状を踏まえ、このような営業に対しては、風俗
     関連営業に対する現行の風適法による規制を参考として、早急に必要
     な対策を講じるべきであると指摘している。

  (注15)本研究会が実施した利用者アンケートにおいては、今後の対応策と
     して、情報発信に対する法律による規制が必要であるとする意見は、
     19.1%であった。

  (注16)イギリスのインターネット監視財団(IWF)(前述)は、利用者
     から問題のあるサイトに関する報告を受けているが、1997年(平
     成9年)1月までに、日本のサイトについて15件(うち、11件が
     児童ポルノ、4件が成人ポルノ)の報告を受けた。これは、アメリカ、
     オランダのサイトに次ぐ件数であるとしている。

  (注17)本研究会が実施した利用者アンケートにおいては、プロバイダーが
     何らかの措置をとるべきであるとする意見(「直ちに削除し、あるい
     は、会員に対して警告をした後に削除すべき」(22.6%)、「自
     ら削除することをせず、会員に対して自主的に削除するように警告」
     (35.0%))が57.6%となっており(「その他」(16.7
     %)の大半も何らかの措置をとるべきであるとする意見)、一方「何
     らの対応もすべきでない」とする意見は22.6%であった。

  (注18)自らのホームページ上にわいせつ画像の記録されたCD−ROMの
     販売の広告としてわいせつ画像を掲載し、電子メールで注文のあった
     者に販売していたプロバイダーについて、秋田県警と大館署は、平成
     9年(1997年)12月9日、わいせつ図画公然陳列と販売の容疑
     で逮捕した。

  (注19)アメリカにおいては、最近、連邦通信法230条(c)(1)が、
     「双方向コンピューター・サービスのいかなる提供者又は利用者をも、
     別の情報コンテンツ提供者が提供する情報の発行者又は代弁者として
     扱ってはならない。」としていることを根拠に、プロバイダーは発行
     者(publisher)としての責任のみならず、流通者(distributor)
     としての責任も負わないとした判決が出され(ゼラン対アメリカ・オ
     ンライン事件(前述:1997年(平成9年)11月12日第4巡回
     区連邦控訴裁判所判決))、注目されている。もし、この判決のよう
     な考えが主流になっていくとすると、日本におけるプロバイダーの責
     任範囲に関する議論にも少なからず影響を及ぼすものと考えられる。

  (注20)アメリカやEU諸国も、違法又は有害な情報の流通に対する対策と
     して、プロバイダーの自主規制の枠組みと実効性ある行為規範(Codes
     of Practice)の重要性を指摘している。

  (注21)ネズミ講の勧誘、デマ情報の他、脅迫めいたメール、いわゆる「電
     子メール爆弾」(いやがらせのために「死ね」「バカ」といった中傷
     メールを一度に何千通も送りつける行為)、チェーンメール(いわゆ
     る「不幸の手紙」の電子メール版)等

  (注22)プロバイダーの中には、匿名による情報の発信を原則として許さな
     いという方針で運営しているところもある。

  (注23)一般に使われているブラウザーの中にも、既にフィルタリング機能
     を内蔵しているものもあるが、ブロックできるサイトが少ないなどの
     限界が指摘されている。

  (注24)1997年(平成9年)12月1日より3日まで、アメリカで非営
     利団体の主催により行われた「インターネットオンラインサミット」
     においても、アメリカ自由人権協会(ACLU)等は、レイティング
     及びフィルタリングの導入は自己検閲につながるとして反対している。

  (注25)大手プロバイダーの中には、外部の警備会社と協力して、電子メー
     ルによるトラブル相談窓口を設置し、会員からの個別相談に対応する
     体制を整えたところもある。



第4章 まとめ

 インターネットは、個人の自己表現の発展、情報による学術・文化的価値の創
出、経済的取引の利便性の向上等、我々の文化的・経済的・社会的生活を豊かに
している一方、違法・有害な情報の流通が問題視されている。インターネットを
誰もが安心して利用できるコミュニケーションの手段とするためには、情報の自
由な流通を確保しつつ、インターネット上の情報流通に関するルール作りを行っ
ていくことが不可欠であり、利用者、プロバイダー、政府その他の各当事者が、
ルール形成のために積極的な役割を果たす責務がある。
 本研究会では、上記のような観点から、インターネット上の情報流通に関する
具体的流通ルールの在り方について検討を行った。提言の内容は、第3章で述べ
たとおりであるが、再度、要点を挙げると以下のとおりである。


1 自己責任の原則の確認
  発信者は、公然性を有する通信における情報発信に伴う責任とリスクを十分
 に認識して利用すべきであり、その自覚を高めるための情報社会教育を推進し
 ていくことが重要である。また、受信者においても、インターネット上の情報
 の中には信頼性の低いものや犯罪性のあるものもあることを自覚し、自己防衛
 に努めることが必要である。

2 違法な情報発信に対する現行法の適用
  オフラインで違法なものはオンラインでも違法であり、違法な情報流通に対
 しては、まずは、現行法の適用で対応すべきである。さらに新たな法的措置を
 講ずることについては、インターネットの進展を見守りつつ、表現の自由と名
 誉・プライバシーの保護、青少年保護等他の利益の保護との調和を図りながら、
 今後ともその在り方を検討していく必要がある。

3 プロバイダーによる自主的対応
  プロバイダーには、情報流通のルール形成に貢献する責務がある。しかし、
 利用者が違法又は有害なコンテントを発信している場合、プロバイダーが法的
 にいかなる責任を負うかは明確ではなく、これを何らかの形で明らかにしてい
 く必要がある。法律によりプロバイダーの責任を規定することについては、国
 内及び海外の動向を見据えつつ、なお慎重に検討すべきであり、当面はプロバ
 イダーの自主的対応に期待していくことが適当である。その際、プロバイダー
 が利用者のコンテントに問題があることを理由に、発信者への注意喚起、削除、
 利用停止及び契約解除等の措置をとることは、電気通信事業法(第3条、第4
 条、第7条及び第34条)上、可能であると考えられる。

4 発信者情報開示(匿名性の制限)の検討
  公然性を有する通信においては、通信の秘密として保護すべき利益と当該通
 信によって被害を受けた者の救済の利益との比較衡量により、一定の要件の下
 で適正な手続に従って発信者を特定する情報を開示することを可能とする手段
 を設けることを検討すべきである。1対1の通信においても、一定の場合には
 同様に開示が認められる余地があり、そのための要件や手続を検討すべきであ
 る。

5 受信者の選択を可能とする技術的手段の活用
  レイティング及びフィルタリング技術の活用及び普及のための施策を推進し
 ていく必要がある。その際、表現の自由に配慮してあくまで受信者の自由意思
 に基づいて進めていくことが大切である。また、迷惑通信対策として、電子メ
 ールの受信拒否機能の導入を進めていくことも必要である。

6 苦情処理窓口の明確化
  プロバイダーによる苦情処理窓口の明確化を図るとともに、苦情処理ホット
 ラインの創設や各専門機関の苦情受付窓口との連携等を進めていくことが課題
 である。

7 今後の動向等を踏まえた検討の推進
  インターネット上の情報流通ルールの在り方については、我が国のみならず、
 諸外国においても様々な議論があり、未だ確定した考えはない状況にある。今
 後とも、本研究会での検討結果を踏まえつつ、国内外での議論の動向を見極め
 ながら、調和のとれたルールを形成すべく、さらに努力を続ける必要がある。



       参考資料 インターネット上における意見募集結果

 平成9年(1997年)10月29日から同年11月12日まで、郵政省のイ
ンターネットのホームページ上で行った意見募集の結果は、以下のとおりである。

1 調査の方法等

○ 調査期間 平成9年(1997年)10月29日〜同年11月12日

○ 調査方法 郵政省のインターネットのホームページ上で意見募集(アンケー
      ト調査)

○ 内  訳 電子メール 257件

○ 性  別 男性 231件(89.9%)
       女性  24件(9.3%)
       不明   2件(0.8%)
 <性別>
 <年齢>
2 調査結果


問1 あなたはインターネットをどのくらい利用していますか。
問2 どのような用途でインターネットを利用していますか。
問3 どのようにインターネットを利用していますか。(複数回答)
 「その他」の例:メーリングリスト、FTP、チャット、業務データの転送等

問4 あなたは今までに、知らない人から商品・サービスの広告などのメール、
  誹謗中傷を内容とするメール、いわゆる不幸の手紙などのチェーンメールな
  どで、迷惑を受けたことがありますか。
問5 あなたは今までに、インターネットのホームページにアクセスして、わい
  せつ表現や他人を誹謗し又は中傷する情報などの違法・有害情報を目にして
  不快に感じたことがありますか。
問6 これらの違法・有害な情報のうち、何らかの対応策が必要と思われるのは
  どの情報ですか。(複数回答)
 「その他」の例:「アンケート等で収集したデータの無断転用」等

問7 これらの違法・有害情報の発信に対する対応策として適当と思われるもの
  は何ですか。(複数回答)
 「その他」の例:「利用者の権利保護のための民事・刑事特別法の制定」
         「現在の法律をネットワーク社会に適用できるよう改正」
         「実社会と区別せず現行の法律をネットワーク社会にも適用」
         「格付けに関する国際的な基準の制定」
         「法規制や自主規制をすべきではなく、利用者自らが解決」
         「インターネット上の違法・有害情報より、実社会で起きてい
         る勧誘電話等の通信の方がはるかに迷惑」 等

問8 プロバイダーが、自らの会員のホームページに、これらの情報が掲載され
  ていることを知った場合に、いかなる対応をすべきだと思われますか。
「その他」の例:

 [1]プロバイダーが何らかの措置をとるべきという意見
  ・「プロバイダーと利用者との間の規約等に従って警告、削除すべき」
  ・「まず発信者への警告を行い、応じない場合、法的根拠に基づき削除する。
   削除できる情報の内容を明確に定めておく」
  ・「プロバイダーは削除規定を明確にし、利用者への周知を徹底すべき。削
   除規定の設定はプロバイダーの主催の自由なので、規制してはならない」

 [2]違法・有害の判断をプロバイダー以外の者がすべきという意見
  ・「原則として、被害者が裁判所に仮処分を申請して削除命令が出たならば、
   プロバイダーは削除に応じるべきである」
  ・一民間業者であるプロバイダーが、情報の一方的な削除を行うのは適当で
   はない。裁判所が適切に定められた法律にしたがって実施すべき。
  ・「プロバイダーが警告、削除するのではなく、ホームページの内容に関係
   する団体や個人が対応すべき」
  ・「プロバイダーによって判断基準が違ってくる場合が考えられるので、プ
   ロバイダー以外の組織が判断し、当該組織が警告を発するべき」

 [3]プロバイダーは何の措置もとるべきでないという意見
  ・「プロバイダーは個人のホームページまで管理すべきではない。プロバイ
   ダーはあくまでキャリアであり、通信内容にまで関与すべきでない。」
  ・「当事者間で解決すべき」


問9 その他(自由意見欄)
 (主な意見)

1 規制の在り方について

 ○ インターネット上の情報発信については何ら規制を加えるべきではないと
  の意見があるが、インターネット上の違法・有害情報により不利益を被る者
  がおり、情報発信者のモラルに頼ることができない以上、何らかの法的規制
  は必要である。

 ○ わいせつ情報、暴力的な情報、他人のプライバシーを侵害する情報を特に
  厳しく取り締まってほしい。

 ○ 「有害」情報については、基準が明確でなく人によって変わるものなので、
  規制すべきではない。「明らかに違法」なものに関してのみ取り締まるべき。

 ○ わいせつ情報等の規制をしても、国境のないインターネット上では意味が
  ない。プロバイダーの自主的な警告、削除が必要である。

 ○ 違法・有害情報を規制するのではなく、個人の対応に任せるべき。

 ○ 違法・有害情報への規制は、法的な手段を取らず、技術的な対応(フィル
  タリング技術等)をすべき。

 ○ インターネット上は一切規制をすべきではない。

 ○ インターネット上だからといって特別な対応は必要ではない。事後的な対
  応を適切に行うことで、当該情報の発信に対する抑止力になるであろう。


2 匿名性について

 ○ そもそも、インターネット上の違法・有害情報の流通は、情報発信者の匿
  名性に起因するのではないか。電子署名や認証の技術を高度化し、情報発信
  者の明確化を図るべきだ。

 ○ ネットワーク内での匿名性は必要ではない。重要なこと(多数の人に対す
  る情報発信)をする場合に身分を明かすことは当然のこと。


3 その他

 ○ 現在、自分の名前をかたり、偽りの投稿をされる被害に遭っている。法的
  整備が未熟なため、裁判を起こすにも多大な負担がかかる。

 ○ 雑誌等へのホームページの無断紹介や、それに付随して勝手なコメントを
  付されたことに憤りを感じた。

 ○ 情報発信者への啓発が必要。



  「電気通信サービスにおける情報流通ルールに関する研究会」委員名簿
                          (敬称略、五十音順)

     ほりべ  まさお
座  長:堀 部  政 男(中央大学法学部教授)

     にいみ  いくふみ
座長代理:新 美  育 文(明治大学法学部教授)

     おおたに かずこ
     大 谷  和 子((社)テレコムサービス協会事業者倫理委員会副
              主査((株)日本総合研究所法務部長))

     さえき  ひとし
     佐 伯  仁 志(東京大学法学部教授)

     すずき  ひでみ
     鈴 木  秀 美(北陸大学法学部助教授)

     たかはし かずゆき
     高 橋  和 之(東京大学法学部教授)

     ふじた  きよし
     藤 田   潔 (日本電信電話(株)法務考査部長)